10年前に子宮頸がんになったとき。
息子を保育所に送った後、車のラジオから子どもが小さい頃大好きだったアニメのマーチが流れてきた。パンチの効いた歌声が心に真っ直ぐ刺さり、我慢していた涙が溢れ、大声で泣きながら歌った。子どもたちのために生きると誓って。
9年前に乳がんになったとき。
半年前には異常は なかったのに、自分で見つけた腫瘍。俄かに信じることはできなかったけれど、腫瘍はすでに大きく1週間後には手術を受けた。衝撃には耐性ができていたのか、2年続けてがんになるなんて不思議だった。術後「ひょっとこ」のように曲がってしまった乳房を鏡で見たときは可笑しくて、そして初めて泣いた。
2年前乳がんが再発したとき。
初発の手術でリンパも取り、放射線治療も長いホルモン療法も予定通り終わっていた。もうがんは治ったのだと思うくらいすっかり安心していただけに、感じたことのない恐怖が一気に私を襲った。ああ、これががん患者と いうことなのだ。でも子どもたちのために絶対死なない。それだけを願い病院を出た、ふと見上げた真っ青な夏空には、大きな鳳凰のような雲。こんなことってあるんだ。私を護ってくれるようだった。
そして今。
乳房を取り、いくつもの抗がん剤をしたけれど、今でもどこかにガンは隠れている。終わるはずだった抗がん剤治療はエンドレスになった。それから1年近く経ち、仕事と両立してきた体も心もくたくたになってきた。何を目標に進めばよいのか気持ちを保つのも簡単なことではない。そんなとき出かけた先で、山の中から今生まれたばかりの鮮やかな 虹が目の前に現れた。虹は「勇気を出して、一度きりの人生を楽しんでごらん」と、次の何かへ私を導いてくれているのかなと思えた。
そうだ。困ったときにはいつだって、私が上を向けるよう、前を向けるようにと神様が贈り物を届けてくれている。だからきっと大丈夫。どんなことがあっても大丈夫。
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