母が入院し「がん」と告知された日、それは家族にとっては、とても長い1日となりました。急遽、家族と親戚が集まり、入院中の母への治療方法や手術日程、家族看護の方法など、今後どのように対応していくかの話し合いがありました。
騒然とした家族の話し合いでは、今後の母親に対する治療の話だけではなく、母親のこれまでの食生活や生活習慣の話題にも広がっていきました。話し合いが進むにつれて、話題の中心は、がん細胞に対する怒りや恨みの話題になっていったのでした。
その時でした。90歳を迎えた父が小さな声でゆっくりと話を始めました。
「母さんの体の中にあるがん細胞も、私が大好きな母さんの体の一部。・・・母さんと二人で、残されたわずかな時間を「がん」とともに生きていければそれで幸せだよ。」と言いながら、家族の張り詰めた空気を切り裂くように、ゆっくりと、ゆっくりと両手を合わせ、無言のまま祈りはじめました。
その父の言葉と姿は、これまでの騒然とした家族の話し合いに、深い沈黙をもたらしました。
「がんとともに生きる」という父の言葉には、力強く癌と立ち向かう治療への決意ではなく、母とともに生きた二人の幸せな人生に感謝する気持ちに溢れていました。
人間の命には限りがあり、永遠の命はありません。しかし「がん」を恨み、悔やむ日々を送るより、愛する人の病気までを受け入れ、生きる時間を大切に思える。そんな人生を送りたいと思います。
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