出展団体の発表の午後の部です。最後まで、心のこもった話が続きました。 がんサバイバー・クラブでは来年も、6月7日に同じ会場で、JCSDを開催します。
がんの親をもつ子どもの力を引き出そう ~NPO法人Hope Tree(ホープツリー)~
午後の発表のトップは、NPO法人Hope Tree(ホープツリー)。代表理事で、医療ソーシャルワーカーの大沢かおりさんが壇上に立った。
ホープツリーは、がんになった親をもつ子どもをサポートしている。なかでも特徴的なのは、小学生と対象にしたCLIMBプログラムだ。
全部で6回。各回のテーマは、①自分自身とがんに関する話を共有し孤立感を弱める、②がんと治療についての知識を増やす、③悲しい気持ちになってもよいこと、④自分の強さに気付くのを助け不安を正常化する、⑤怒りの気持ちを適切に表現し対処する、⑥がんの親とのコミュニケーションの促進、だ。 子どもたち同士とスタッフが信頼関係を築きながら、工作を活用し、自分の気持ちについて考え、話す。親同士が自由に話し合う時間もある。
CLIMBは6回のプログラムで終わりではない。同窓会やイベント、グリーフケアも開催する。医療関係者を対象にプログラムを実施できる専門職の養成講座も行う。
「CLIMBは子どもの力を引き出し、ストレスに対処する能力を高めることが目的です。子どもたちは自分の気持ちを抱え込まずに健康的に表出することを学ぶので、その後の人生のいろいろな場面で活用できると思います」
CLIMBの活動は、2019年5月現在、東京共済病院、相良病院、秋田大学医学部、埼玉石心会病院、慶應義塾大学病院、福井県済生会病院、淀川キリスト教病院など全国10の病院で展開されている。
付き添いのお母さんたちを食事で応援 ~NPO法人キープ・ママ・スマイリング~
続いて、病気や発達がゆっくりな子どものお母さんや家族を応援するNPO法人キープ・ママ・スマイリング理事の渡辺千鶴さんが発表した。
活動の原点は、理事長の光原ゆきさんの小児病棟での付き添い体験だ。付き添いの母親はチーム医療の一員として重要な役割を果たしているのに、食事や睡眠などのサポートが薄く、いつしか疲弊してしまう。サポート環境が整えば気持ちのゆとりが生まれる。もっと笑顔で子どもと向き合える。そんな思いから始まった。スタートは食事の提供。2015年、国立成育医療研究センターの敷地内にあるファミリーハウスに滞在する家族への夕食提供を始めた。そんな中で出会ったイタリア料理の米澤文雄シェフ(The Burn料理長)からメニュー作りや調理指導をしてもらった。 また、管理栄養士の協力で中高生や大人のボランティアによる夕食づくりを行ったり、おせち料理や年越しそばなどを提供したりしている。聖路加国際病院小児病棟の茶話会でのランチ提供も実現した。
「料理に励まされて明日からの看護をがんばれそう」といった感想が届き、それが活動の励みにもなるという。
2019年春からは、全国の付き添いママに無料で食事を届けるため、ミールdeスマイリングプロジェクトを立ち上げた。米澤シェフの考案・監修のもと、レトルト化した料理を缶詰にした。大豆ミートのキーマカレー、豚肉のりんご煮など4種類。災害備蓄品として企業などに販売して資金を得たいという。渡辺さんは会場に呼びかけた。
「最大の課題は、プロジェクトを受け入れてくれる医療機関を一つでも増やすことです。みなさんも、プロジェクトのことをご自分の病院に伝え、サービス受け入れをご要望いただけるとありがたいです。患者さんの声が医療を変えていくと思います」
日常生活を応援できる ~東京大学医学部附属病院外見ケアグループ~
パネルディスカッションのパネリストを務めた分田貴子先生が立ち上げた東京大学医学部附属病院外見ケアグループの発表では、同病院の患者の筒井佳亜里さんが壇上に立った。7年前に大腸がんのステージ4とわかったという。
「私は治療中、見た目の悩みは相談するところもないと思い、我慢して、あきらめていました。でも、患者さんから外見ケア外来があると聞いて、行ってみて、乗り切ることができました。日常生活を応援できるのも、外見ケアの力だと思います」
東大病院では毎月2回、外見ケアイベントを開催している。働いている人も来やすいように休日に行うこともある。
会場では、ウィッグ、乳がん用の下着などを展示し、メイクやフェイシャルケア、ネイルなどの美容サービスを男性も受けられる。眉の描き方も学べる。
毎回ではないが、紅茶の淹れ方、ハーバリウム(瓶にドライフラワーなどを入れて観賞するもの)づくり、ツボのセルフケアなども行う。ハロウィーンでは仮装もする。
「何より交流の場にもなっていて、お茶を飲みながら楽しく過ごしています」
外見ケアイベントは誰でも参加できる。また、毎月1回の患者サロンも、東大病院の患者でなくても参加できる。
がんのイメージを変えるきっかけにしたい ~がんフォト*がんストーリー~
がんフォト*がんストーリー代表の木口マリさんは、がんサバイバー・クラブのサイトの連載エッセイでもおなじみだ。子宮頸がんを経験した写真家で、治療中は体力が落ちてiPhoneで写真を撮っていたという。「寝たきりで片手しか動かなくても楽しいことが作れるんだな」と気づいたという。
そこで仲間と始めたのが、がんフォト*がんストーリーだ。がん経験者、家族や友人、医療者の投稿型のオンライン写真展。写真や言葉を通じて想いを共有し、勇気をもらったり、反対に誰かに力を与えたりする。 木口さんは「世の中のがんに対するイメージを変えていくきっかけにしたい」と語り、具体的な作品をいくつか見せた。
リアルイベントも開催している。一般の人たちも見られるオープンな観光スポットで開く。たとえば、みんなでタペストリーを製作して、通りがかりの人にも参加してもらったりした。完成した作品は国立がん研究センター中央病院に展示された。
さらに、スライドムービーにピアノの生演奏を合わせる新たなプロジェクトも始めた。
「いろんな人とコラボすることで、新しい可能性が見えてくると思います。みなさんもぜひ、ご投稿ください」
最大級の一般向けがんイベント ~認定NPO法人キャンサーネットジャパン~
発表のラストは、認定NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)。事務局長の木原康太さんが登壇した。
CNJは1991年、乳がんの医師2人によって活動を開始した。ミッション(使命)は「がん患者が本人の意思に基づき治療に臨めるよう、科学的根拠に基づく情報発信を行うこと」、ビジョン(夢)は「がんになっても生きがいのある社会を実現すること」。「Know More Cancer」、がんについて「1知る、2学ぶ、3集う」を提供することをスローガンに掲げる。
具体的な活動としては、まずはがん医療セミナー。2018年度には全国各地で51回開催した。セミナーなどで収録した動画はネット(Cancer Channel)で配信している。また、全32種類のがん啓発冊子を作成し、全国のがん診療連携拠点病院などで配布している。
ほかに、乳がん体験者コーディネーターなど各種養成講座やおしゃべりサロン、個別相談なども開いている。
CNJの最大のイベントはキャンサーフォーラム。東京と大阪で開催し、日本でも最大級の一般向けがんイベントになっている。2018年の東京では、約100人の講師で54コマの講座を開き、約3000人が集まった。
「今年は8月17日、18日にここ、国立がん研究センターで実施します。多くの方とお会いできることを楽しみにしております」