夏本番です。日本対がん協会のがんサバイバー・クラブは、7月18日、第10回サバイバーカフェを開きました。テーマは「真夏の治療・通院・生活の工夫/治療を乗り切るために」。 講師は、いずれも東京医科歯科大学医学部附属病院の三宅智医師(緩和ケア科)、本松裕子・緩和ケア認定看護師、有本正子・がん病態栄養専門管理栄養士、の3人。夏のおすすめメニュー、手軽にできる食事や生活の工夫、がんの基本などまで、楽しく学べました。
(文=日本対がん協会・中村智志)
夏バテの予防にはビタミンB群
最初に話したのは、栄養士の有本正子さん。テーマは「食事の工夫」だ。 有本さんは、「夏の食べものあるなしクイズ」となぞかけのようなクイズを出した。夏の食べ物・飲み物を2つに分類する。 「あり」は、うなぎ、冷やし中華、冷奴、カレー。 「なし」は、スイカ、そうめん、ところてん、かき氷。 「この違いは何でしょう? 正解を考えながら、話を聞いてください」 それから有本さんは、夏バテの予防に大切なビタミンB群について解説した。 ビタミンB1は糖質代謝、疲労回復に重要だ。大豆類、ゴマ、玄米、胚芽米、ウナギ、豚肉、牛乳、レバーなどに含まれる。 ビタミンB2は脂質代謝、口内炎予防。レバー、牛乳、卵、納豆などに入っている。 ビタミンB6はアミノ酸合成・分解。食品ならカツオ、マグロ、レバーなどだ。 ビタミンB12は細胞分裂に作用する。レバーやカキ、アサリなどに入っている。菜食主義者や胃がんの手術をした人は不足しがちだ。欠乏すると貧血になりやすい。 ナイアシンは各種栄養やアルコールの代謝に必要だ。たらこ、カツオ、レバー、落花生などに含まれる。 ビオチンは、レバー、イワシ、落花生などにある。欠乏すると疲れやすくなったり食欲不振になったりする。 「ビタミンB群は、お肉、お魚、レバーなどに多く含まれています。食べやすいもので補給していただければと思います」 有本正子さん。手振り身振り、表情豊かに話してくれた自分でも簡単につくれる経口補水液
ビタミンB群と並んで重要なのが、水分補給である。 人体の50~80%は水分だ。体内の水分が1~2%失われるだけでも、のどの渇きや運動能力低下を覚える。3%で食欲不振、4~5%で疲労感や頭痛、めまい。10%以上だと命が危ないという。 「脱水を調べる簡単な方法は、ツルゴール反応です。手の甲をつまんで2秒以内に戻らなくなると脱水が疑われます。脱水を改善するには、汗の成分を補うスポーツドリンクよりも、経口補水液が望ましいです。経口補水液は下痢や嘔吐で失った成分も補います。ただし一気飲みは向きません。また、とりあえずビールはダメで、とりあえず麦茶か水です。お酒やカフェインには利尿作用があるので」 電解質補給飲料(経口補水液)は、簡単に手作りできる。①スポーツドリンク500ミリリットルに塩小さじ4分の1を混ぜる。②100%果汁ジュース500ミリリットル、水500ミリリットルに、塩小さじ2分の1を混ぜる。 有本さんのおすすめは②だ。ちなみに有本さんが所属する東京医科歯科大病院の臨床栄養部は、「アクアファン」というエネルギー・ビタミンB1・電解質補給飲料の開発に協力している。おすすめの夏のメニュー3選
有本さんは続いて、夏のおすすめメニューを3つ、披露した。 ①サラダそうめん、②ポークジンジャー、③シーフードカレー。 いずれも東京医科歯科大学病院で提供しているメニューだ。ビタミンB1やビタミンCを補給できるし、シーフードを肉に代えるなどのアレンジができる。 「食べる量は、1人前をベースに、食欲に合わせてでいいと思います。理想は1日3食。朝は食べられない人はヨーグルトだけでも。冷たくて甘いものの食べすぎは要注意で、一品は温かいものを取りましょう。私は、元気を出したいときには、豚しゃぶです」 会場から、炭水化物を絞るケトン食についての質問が出た。有本さんは、 「ごはんを食べないと便秘になったりします。あまり気にせず、飲み物の砂糖を減らしたり、お菓子を食べすぎなかったりすれば十分ではないでしょうか」 と説明した。 野菜→肉類→ごはん、といった食事の順番についての質問も出た。 「野菜を先に食べると、ピークの血糖値が20%ぐらい下がることが期待できます。ただ食欲がないときは、先に野菜だけ食べると肉や魚が食べられなくなってしまいます」 おすすめメニューのポークジンジャー。白米を玄米にするとビタミンB群が増加適度な運動はよい睡眠につながり、よい睡眠は治癒力を高める
次に、緩和ケア認定看護師の本松裕子さんが講演した。テーマは「生活の工夫」。 熱中症、熱帯夜、冷房などで体調を崩せば通院や治療に影響が出る。食事、運動、睡眠、水分補給……規則正しい生活が何より大切だ。 「適度な運動は、暑さへの抵抗力を高め、体を守ることやよりよい睡眠につながります。早朝や夕方の散歩はいかがでしょうか。よい睡眠は、病気への抵抗力や治癒力を高めるとも言われます。なお、食事は就寝2時間前までに終わらせましょう」 治療中は、ただでさえ疲れやすい。通院の際には時間に余裕を持ち、適度に休憩をとる。処方箋の薬が薬局にないこともあるので、事前に確認するなどの準備も有効だという。 冷房対策も欠かせない。羽織るものやスカーフを持参したり、温かいお茶を飲んだり。ぬるめのお風呂にゆっくり入るのもお勧めだ。水分補給は、1日に8回ぐらい、1回コップ1杯程度の水を飲む程度でもよいという。 本松裕子さん。夏対策だけでなく、「楽しみを作りながら生活しましょう」と語った汗をかいたときの対応は?
放射線や分子標的薬の治療では、皮膚が炎症を起こしやすい。紫外線は大敵だ。外出する場合は、日中の日差しが厳しい時間はなるべく避けて、長そでやしっかりした生地の服を着る。日傘、帽子、日焼け止めクリームなどで防御することも忘れない。 ウィッグにも蒸れ対策がある。頭に密着する部分を通気性のよいメッシュにしたり、保冷剤をウィッグに挟んだりといった工夫もできる。 ストーマ(人工肛門、人工膀胱)装具のケアもある。汗をかくので、交換の間隔をふだんより1~2日短くする。皮膚とストーマ装具の間の汗を吸収するためにタオルを挟んでもよい。 夏休みには旅行を計画している人も多いだろう。 海外旅行では、空港でストーマのことを聞かれる可能性がある。また医療用の麻薬を持ち込むのに事前申請が必要になる。そんなことや不測の事態に備えて、英語の診断書を持参すると安心だという。本松さんはこう結んだ。 「日頃から相談できる場所や医療者を見つけておきましょう。たとえば、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターや外来の看護師。自宅近くのクリニックや訪問看護師さんとも、つながっておくと何かあったときに安心です」薬でがんをコントロールできる時代が来る!?
ラストは三宅智先生だ。医師人生の3分の1は食道外科医だった。治療における夏に特化した事項はあまり多くなく、知っておきたいがんの基本を丁寧に解説した。 がん細胞(悪性腫瘍)は転移・浸潤を起こすが、良性腫瘍は大きくなっても転移・浸潤は起こさない。がんは遺伝子が傷つくことで起こる(遺伝子の病気)。がんになる内的要因はホルモンや遺伝、外的要因は食料、放射線、たばこ等である。 「遺伝子に傷がつく頻度は加齢によって増えます。人間の寿命が200歳まで延びたら全員がんになる、という説もあります」 もっとも最近は、がんになっても長生きする人が増えて、がんサバイバーの30%ぐらいはがん以外で亡くなっているという。 「がん治療は大きな変化が起きつつあります。かつて不治の病だったエイズは、今は薬で発症を抑えられるようになりました。がんも将来的には薬でコントロールできるようになるのでは、という見解もあります」 三宅智先生。希望を感じさせる話が印象的だったがん治療のベースにあるQOLの向上
では、予防や治療の要点は何か? 一次予防は、がんにならないようにすること。禁煙、子宮頸がんなどのワクチンを打つ、胃にピロリ菌があれば除去する。二次予防は、検診で早く見つけること。早く見つかれば手術のダメージも再発の危険も低い。 治療は、外科療法(手術)、放射線療法、薬物療法が3大治療となる。 どれも近年、進歩している。手術では痛みや傷、出血が少ない内視鏡的治療や低侵襲手術で患者への負担が軽減されてきた。なかでも手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使ったロボット手術は、動きが人の手より精密だという。 放射線療法でも、まだ保険適用ではないが、陽子線や重粒子線というがん細胞だけに当てる療法が実現している。 薬物療法は、従来の抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬、免疫療法に分けられる。分子標的薬はがん細胞だけを攻撃する。従来の抗がん剤に比べ効果が高く副作用も少ない。慢性骨髄性白血病の場合は、グリベックなど分子標的薬で長生きできるようになった。 免疫療法も、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬の登場で様変わりした。がん細胞そのものを攻撃するのではなく、免疫細胞の力を回復させる。復活した免疫細胞ががん細胞を攻撃するという仕組みだ。 3大治療のほかに、緩和ケア、補完代替医療(漢方、鍼灸など)があり、治療はトータルで行う。 「がん治療の目標は、治癒、生存期間の延長、副作用対策、がんとの共存です。すべてのベースにあるのが、生活の質(QOL)の向上です。ステージ4は手術ができない状態ですが、末期ではありません。免疫チェックポイント阻害薬が効いて、事実上の治癒ではないかという症例も報告されています」医師とのコミュニケーションの秘策とは?
三宅先生は最後に、医師の視点から見た真夏のがん治療の注意点を紹介した。 「外科では、術後の食事の量が落ちるので、脱水症状にならないよう、栄養チューブを通して水分補給をするなどのケアをします。放射線では、猛暑での連日の通院、放射線を当てる場所のマーキングが汗で消えることがあるので要注意です。頭頚部の照射野の日焼け予防も大切です。薬物療法では、やはり水分補給でしょう。あまり知られていませんが、夏は学会や人事異動がないので、医師が治療に専念しやすい季節でもあります」 参加者から質問が出た。
――がんになると、急に選択を迫られます。専門用語を浴びせられて、「自分で勉強して決めてください」と言われます。でも、正直なところ、どう手を付けていいかわかりませんでした。情報はどこで取るべきでしょうか?
「ネットでは、国立がん研究センターのウェブサイト『がん情報サービス』だと思います。直接行くなら、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでしょう。その病院の患者でなくても、誰でも相談できます」
――医師とのコミュニケーションが難しい場合はどうしたらよいでしょうか?
「実は私も、自分が患者になると、後輩の医師にかかっても遠慮してしまうんです(笑)。それはさておき、病院の中で、違う医療者とも関係を築くといいでしょう。看護師、がん相談支援センター、緩和ケア外来の医療者……。緩和ケア外来には、医師も看護師、薬剤師もいます。こうした医療者に主治医に言えなかった話をすることもできます。そういう情報がフィードバックされることは、主治医にとってもプラスになります」
こうして約2時間にわたるカフェは終わった。
梅雨寒の夜だったが、参加されたみなさんは、最後まで熱心に耳を傾けていた。
次回のサバカフェは10月31日(木)を予定しています。テーマは「がんの薬ができるまで~映画「希望のちから」をみんなで観よう!~」。鑑賞後に語り合います。
「がんサバイバーを孤立させない」社会を目指して。
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