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第35回 ドラマ以上!?「大名行列回診」を活用してみた〜木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2020年1月15日 13時14分

 実際に自分が入院してみると、「思っていたのと全然違う!」ということが山のようにありました。病院はきれいだし、医療は驚くほど進んでいるし、素敵であたたかいお医者さんや看護師さんはたくさんいるし。  

 しかし逆に、「これはまさにドラマのようだ!」というものがひとつ。それが、「お医者さんの、ゾロゾロ回診」。  

 医療ドラマで、ここぞとばかりに登場する、大名行列風な回診シーン。これまでは、「今どき、そんなこと本当にやっているの?」と、わざとらしさにシラケ顔になったものです。それが現実にあり、しかも自分の身に起こるとは……!   

 私が入院したのは9回。7回は婦人科、2回は総合外科での入院です。総合外科は、院長がトップの科。その行列たるや、スゴイものがありました。  

初対面の人々に囲まれる、すっぴんのワタシ

クリスマスリースに酷似しているけれど、間違いなくお正月飾り。

 がんというのは、特別に大きな自覚症状がなく進んでいくことも多いため、「がんです」と言われたときには、「自分的にはわりと元気だけれど病人」という、不思議な状況に陥ります。  

 近年の病院は、大部屋でも一人ひとりのスペースが大きく取られていて、カーテンを閉めればまるで個室。荷物を整理したら部屋着に着替えて昼からゴロゴロ。「快適だなあ」などとくつろいでおりました。たまに看護師さんの来訪を受けるも、時間はのんびりと過ぎていく。  

 そんな、完全に油断しきったころ……。不意に呼ばれてカーテンを開けてみれば、そこにはズラリと白衣の集団が! と言っても確か6〜7人だったと思うのだけど、すっぴんかつ無防備な服装で、ちょこんとベッドに座り込んでいるところを医師に囲まれるのは、なかなかのインパクト。知っている人は主治医しかいないし、でも、全員の視線は文字通り私を見下ろす形で注がれているのでした。  

「これが、大学病院名物の回診というものか」と、ビビリながらも理解できたものの、何をどうしたらいいかわからずで、目が挙動不審に泳ぎまわっていたのではと思います。  

 しかもみなさんは、ただの「初対面の人たち」ではなく、「カルテを読んで、ある程度細かいところまで私のことを知っているであろう初対面の人たち」です。その一方的な関係に微妙なものを感じなくもない。  

 しかし、初対面だった医師たちも、しばらくすれば顔見知り。世間話の一つでもできるようになれば、ヒマな患者に会いに来てくれるありがたい来客となるわけです。外来のように待つ必要もないし、気になったことをすぐに聞けるのもポイントのひとつ。  何より、医師同士のやりとりや雰囲気から、自分の治療にかかわる医師たちの「素」の一面や、チーム力を感じることができたのが、私にはとても大きかったと思います。  

その回診、ドラマ以上!? 総合外科でびっくり

大部屋でも一人当たりのスペースは意外に広い。そして快適!

 患者仲間と話していると、結構多くの人が大回診を経験しています。「すごいよね」「ドラマみたいだった」と、患者同士のネタの一つと化しています。  

 ところが、私が合併症で入院した総合外科の大回診は、「ドラマなんて目じゃなかった」というものでした。  

 この病院の総合外科は、とにかく医師の数が多い。トップが院長であるからか、外科特有のものなのか、何となくクールで堂々として、花形な雰囲気が漂っていました。人数的にも雰囲気的にも、婦人科のソフトなものとはまるで違う。   

 ある日のこと。いつも通りベッドで待っていると、ザザザザザザ……という、聞いたこともない数の足音が近づいてくるではありませんか。 「もしやこれは、回診か!」と思ったころには、カーテン越しにただならぬ気配が。どれほどの人数がいるのかというほどの濃厚な空気を感じました。ゆらりゆらりと揺れる人影に光が遮られ、ほのかに辺りが暗くなったような……。  

 まずは私の命の恩人、若手イケメン外科医のジャニーズ先生(詳しくは、がんのココロ第11回「『先生、聞いてください』主治医を味方にしてみよう」を参照)が登場。さらにカーテンを開けると、そこには驚愕の光景が広がっていました。  

 ベッドの3辺を埋めつくすどころか、大部屋全体にすら収まっていない白衣の波。それは廊下にまで溢れ、果たしてどこまで続いているのやら。  

 こうなると、「若手医師が、ベテラン医師の手法を見て学ぶ」などということができるはずもなく、いったいどんな意味があってやっているのだろうと考えずにはいられない。  

 ほほ〜、と興味深く眺めているところで、ズズイと院長が登場。お腹の傷を診て、ちょっととんちんかんな一言を発し、すぐさま去ってしまいました。  

 医師の群れはそれに続いて、一瞬で消えていく。それはまるで、ザッパーンと打ちよせて一気に引いていく波のよう。かろうじてジャニーズ先生がベッドサイドに残るも、群れについていかなくて怒られやしないかと、私の方がハラハラしてしまいました。  

医師の名前を覚えてみよう!

ドシロウトながら、ギターが好きです。入院中は医師ともそんな話をしてみたり。

 回診では、初めて出会う医師がちょくちょく現れるため、「せめて、患者としてできること」として、顔と名前を一致させる努力をしていました。再びやってきた時に、覚えていたら医師もうれしいだろうと思ったからです。  

 名札を見て、顔を記憶し、回診後にすかさずメモったうえ、病院のホームページで再確認をするという、マメ(というか、ヒマ?)なことをしていました。  患者にできるちょっとした努力が、信頼関係を深めるきっかけになるのではと思っています。  

 それにしても、大学病院の回診というのはなかなかに面白い。一度は経験の価値アリ……かもしれません。  


木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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