前回の「がん相談ホットラインの現場から」で、家族が手助けしてくれた時、「ごめんね」の代わりに、「ありがとう」を言葉にしてみてはどうでしょう、とお話ししました。
でも、治療で体も心もつらい時、なかなかそう言える余裕がないこともあると思います。家族が家事を手伝ってくれたり、家族に限らず周りの人が手助けしてくれたりした時、体の負担は軽くなっても、心の負担が重くなる……。 こう感じたことがある方は多いのではないでしょうか。
「してもらう」「やってもらう」というのは、どちらかというと一方通行のことです。手助けする側は、患者さんを支えたいという気持ちは大切にしつつ、患者さんは複雑な思いを持っていることを頭の片隅において、支え方を考えていくとより良いでしょう。
では、患者さん側はどんな気持ちでいたらいいでしょうか。「してもらってばかりで申し訳ない」「ありがたいけど心苦しい」、こんな風に感じたとき、こう考えてみてはどうでしょう。
「力を借りる」です。
借りるのですから、あとで返せばいいのです。返し方は色々で構いません。あなたが元気になることかもしれませんし、思うように体が回復しない場合だって、あなたが微笑むことが相手にとって何よりのお返しになるかもしれません。
こうした話を抗がん剤治療中の相談者にお話ししたことがあります。 その方は、副作用で毎朝の日課だったご主人のネクタイ選びが出来なくなり、情けないと自分を責めていました。でも、少し体調が良かった朝、「そのネクタイより、あっちの方がいいわ」、そう言った時、ご主人が満面の笑みを浮かべたそうです。
ご主人にとっては、何気ないこのやりとりこそが、とても大きなお返しだったわけです。そう相談者に伝えると、「えっ?こんなことが?」と驚いていました。でも、すぐに「そういえば、あんなにうれしそうな顔、しばらく見ていなかった」とおっしゃいました。 つらさと悔しさが入り混じった苦しい声から、優しい声に変わっていました。
少しだけ考え方を変えてみたり、違った見方をしてみたりすることで、心が少し軽くなる。こうしたちょっとしたことが、患者さん自身はもちろん、ご家族や周囲の人の心に変化をもたらしてくれるかもしれません。