がんに付き物の出来事。それは「検査」。
私も、「がんです」と言われたときから、さまざまな検査を受けてきました。
よくある血液検査から、PET-CTやMRIといった「テレビで見たことがある」くらいにしか馴染みのない検査、そして「非常に不快」とウワサの大腸造影剤検査などなど。
いくら人工肛門や抗がん剤の脱毛ライフを楽しめていたキグチとはいえ、がん治療のための検査など愉快なはずもなく……と思いきや、結構ふんだんに面白いことがありました。
今回は、前回から引き続き「面白い体験シリーズ」で、何かといちいちオチがつく、私の検査体験レポート第一弾。「術前検査」と「MRI検査」のお話です。
つられて肺の底から息を吐く「術前検査」
一度目の手術のとき、手術を受けても問題ないかを調べるための「術前検査」を行いました。内容は、血液検査や心電図検査、身長・体重測定など、健康診断みたいなもの。手渡されたチェックリスト順に院内を巡っていきます。
診察で手術日を決めたその足での検査だったため、仄かに焦るような心持ちではあったものの、目的を持ってチェックポイントを巡るのは、ちょっとした観光スタンプラリーぽい。そのときの手術は簡単なうえ、「多分、これで治るのだろう」という根拠のない楽観もあって、たいして重くない足取りでスタスタと歩き回っていました。
心電図検査で「リラックスしてくださ〜い」というスパさながらの柔らかな声の検査技師さんに癒されたり、「チクッとしますよ〜」で看護師さんにチクッとされたり。
一つひとつこなしていき、呼吸器検査ポイントまでやってきました。
肺活量測定なんて、中学生のとき以来です。「最近はジョギングもしているし、いい結果が出るはず!」と期待。この時点ではもう術前検査というより、「身体能力を測る検査」のような感覚になっていました。
物置きと見まごうばかりの狭〜い検査室には、見てびっくりのハイテク機器がドンと据え置かれていました。検査室のほとんどを装置が占領。昔は水を入れたバケツサイズの装置に息を吹き込み、中にあるタンクがどれくらい浮き出るかで測るアナログなものでしたが、さすがにウン十年の進歩を感じます。
そして検査室の主は、小柄かつおかっぱで、コミカルな気配を漂わす中年女性の技師さん。素早く無駄のないテキパキとした動きも、無駄がなさすぎて何だか愉快。
(何か面白いな、この人……)と思っていたら、検査の仕方も医療機関らしからぬ、元気いっぱいなものでした。
「ハイッ! まずは練習ねっ!」
「ハア〜イ、大きく吸って〜〜〜!!」(大声)
「ハア〜イ! もっともっともっともっと〜〜〜!!」(体全体で表現)
「吸いきったら吐くウゥゥゥ〜〜! フウーーーーーー!!!!」(ジェスチャー最大)
「まだまだいけるウゥゥゥ〜〜! フウーーーーーー!!!!」(パワー継続)
この勢いにつられて、もう出ないだろうというくらい肺から空気を搾り出した気がします。練習、本番とこの調子で繰り広げられ、気づいたら検査室の外に立っていました。
う〜ん、ここまでパワーのある人ってスゴイ。完全にやられた!
真の肺活量を測るには、てきめんの人材です。
その後も病院をうろついていると、度々、廊下にまで響き渡る「フウーーーーーー!!!!」を耳にしました。きっと彼女は、今日も誰かの呼吸機能を最大限に引き出していることでしょう。
【この日の感想】この人の肺活量を計ってみたい
「浅い呼吸をしてください」のプレッシャーで撃沈「MRI検査」
術前検査で腫瘍マーカーの数値が高いことが判明し、手術直前に急遽組み入れられたのが「MRI検査」。そのころ見ていた米国の医療ドラマ『Dr. HOUSE/ドクターハウス』で頻繁に登場していて、その重厚感に憧れすら感じていました。
「狭い」「うるさい」というウワサを耳にしつつも、「あのカッコいい検査を受けられる」という期待の方が大きく、ちょっとワクワク。身体を巨大なマジックテープで台に固定され、早速検査が開始されました。
MRIの印象、其の一:
「装置の中は、かなり狭い」!!
ここまでやるかというくらい狭い。しかもずっしりと重そうな装置のせいか、結構な圧迫感。象のお腹の下に寝そべっているようで、なんとな〜く怖い。
MRIの印象、其の二:
「変な音」!!
『Dr. House』では、「高級医療機器です」と言わんばかりの重低音が響いていたのに、私が聞いたのは……、“ピヨ〜〜ピヨ〜〜(高音)、トトトトト(低音)、ポーー(中音?)”。
……全然カッコよくない。
もしかしたら最新式(2013年当時)だったのかもしれませんが、「何コレ……」と少々気が抜けた気分。ただし、うるさくはありませんでした。
MRIは、一瞬で終了するCTやレントゲンに比べて、意外と時間がかかります。私のときは腹部の検査で、確か20分くらい。じっくりと撮影していきますが、その間、息を止めているわけにはいかず、お腹も自然と動いてしまいます。
どうしたらいいのかと思いきや、「浅く息をしてください」とのこと。
しかしその一言がプレッシャーとなり、いつも以上に深呼吸になってしまうという有様。
案の定、一度目の撮影は失敗。検査技師さん、ちょっと機嫌悪そう。
お腹に固いスポンジのようなものを乗せられ、さらにギュウギュウと固定されて再挑戦となりました。
(今度こそ、浅い呼吸だっ!)
ところが、動かないようにすればするほど動く腹。「どうすればうまくいくのか!?」と考えあぐねているうちに検査が終了しました。
無言の検査技師さんの様子に、一応、うまく撮れたのであろうと想像。時間が押していたらしく、その後ただちに手術室に投げ込まれました。
後日のこと。一度目の手術の結果はかんばしくなく、大きな手術を受けることになったため、セカンドオピニオンで国立がん研究センターを訪れました。もちろん、MRIの画像データを含む、検査結果をたずさえて。
パソコン画面に目を凝らし、MRI画像を眺める医師。 真剣な面持ちで出た一言は、
「……なんでこんなにブレているんだ??」
どうやら、「浅い呼吸作戦」は見事に失敗だったようです。何だか大変恥ずかしく、「さあ〜〜」としか言えず。
MRIでお腹を撮るのが、こんなに難しいとは。
というか、多分私だけです。
【この日の疑問】いったいみんな、どうやって20分もお腹を動かさずにいられるのだろう
「いろんな検査をやってみた」第2弾は、動く放射性物質体験「PET-CT検査」と、管をオケツに刺したままゴロゴロ転がる「大腸造影剤検査」のお話です。