新着情報

元MDアンダーソンがんセンター
上野美和のテキサス便り 第5回
全米ベストホスピタルの
“逆説的”食生活改善プラン

掲載日:2020年8月21日 12時19分

 1360以上の臨床試験が進行中

 MDアンダーソンがんセンターは、2020年も、米国の雑誌「US News & World Report」が行っている全米の病院ランキングで、がん部門においてベストホスピタルに選ばれました。

 米国の病院はこのランキングを重視しています。MDアンダーソンは、ニュースリリースだけでなく、ニュースビデオでも「名誉だ、光栄だ(honored)」という言葉を前面に出して、喜びと決意を伝えています。

 たとえばビデオでは、こんなふうに語っています。 「新型コロナウイルスという前例のない状況の中、約2万2000人の従業員と共に、多くのチャレンジに取り組んでいます。このパンデミックでも止まることのないがんを撲滅するため、1360以上の臨床試験を進めています。テキサス州および全世界のがん予防に取り組んでいます」

 https://www.mdanderson.org/newsroom/md-anderson-honored-to-rank-as-nation-s-best-hospital-for-cancer.h00-159383523.html  https://www.youtube.com/watch?v=VYb5SpHbh18

  全米1位を誇っているMDアンダーソンがんセンターのビデオ。


 5つの障壁を克服する

 そんなMDアンダーソンの患者へのケアは、一般的な治療にとどまりません。たとえば、がんサバイバーにとって悩ましい食事の問題もカバーします。

 MDアンダーソンの栄養士のリンジー・ウォルフォード(Lindsey Wohlford)さんは、「食生活の改善を妨げる5つの障壁とその克服方法」と題した記事の取材に答えて、健康的な食生活の達成を邪魔しているものを挙げています。

 読者のみなさんも、1つや2つは思い当たるのではないでしょうか。 https://www.mdanderson.org/publications/focused-on-health/5-barriers-to-diet-change-and-how-to-overcome-them.h28-1593780.html

1)時間が足りない

 ほかの目標を達成したいときと同様に、まずは健康な食生活の計画を立てること。そのうえで、カット済みの食品を買う、スロークッカー(煮込み料理などに使う鍋の形をした調理家電)を利用する、レシピの2倍の量を作って余ったら冷凍保存する、買い物や料理で迷わないように健康的な食事のリストを作っておく、オンラインで食料品を購入する、といった工夫をすれば、「時間が足りない」を克服できる。

2)急激な変化に打ちのめされる  あれもこれも、一気に変えようとしないこと。劇的な変化に打ちのめされてしまい、手に負えなくなり、自信をなくしてしまう。

 逆に、実現できる小さな変化の積み重ねが自信につながり、徐々にライフスタイルの一部になる。新しい習慣が身についたら、次の新しい習慣に取り組む。食生活の改善へ向けた変化は、(1回きりの)イベントではなく、(継続していく)プロセスなのである。

3)「オールオアナッシング(全か無か)」という考え方  食生活の改善を決めても、ある時点で、挫折するときが来るかもしれない。そんなとき、「オールオアナッシング」の考え方を持っていると、挫折が失敗と感じられて、改善すること自体をやめたくなってしまう。

 しかし、あなたは進歩を目指しているのであって、完全を目指しているのではない。そのことを忘れないように。挫折を道路上の障害物と見て、つまずいても進み続けることが大切だ。変化には時間がかかるが、歩き続ければたどり着ける。

4)食生活の困惑  食事療法や栄養に関する膨大な情報に困惑してしまっているのでは? これらの情報は、あなたを科学的根拠に基づかないアドバイスに導いてしまう可能性もある。  栄養士なら、たくさんの情報を整理し、個々のライフスタイルに合った、研究に基づく栄養指導を提供してくれる。また、継続的なサポートもしてくれる。

5)奪われた気分  健康的な生活を始めることは、好きな食べ物をあきらめることを意味するかもしれない。しかし、すべての好物に「さようなら」を言わねばならないわけではない。健康的な食生活とは、適度にさまざまな食べ物を食べることを学ぶことである。

 栄養士は、あなたが健康的な体重を維持し、慢性疾患のリスクを減らすため、好きな食べ物と他の食べ物のバランスを取る方法を学ぶことを助けてくれる。

 1)から5)で見てきたように、何が問題なのかを特定できれば、成功のチャンスははるかに高まる。


 一進一退ながらも少しずつ

 食生活の改善方法を伝授する場合、普通なら、プラスの要素を挙げていくでしょう。しかし、ウォルフォードさんは、障壁というマイナスポイントを明確にして、それをクリアするほうが目標達成への近道だと考えているのです。

 逆説的ですが、とても興味深い視点です。  もう1点、少しずつの改善を積み重ねればいいという助言も、やさしく響いてきます。

 食生活の改善は、一進一退のところがあると思います。  私は、1日3食、1食当たり野菜を150g以上摂取する生活を3カ月ほど続けたことがありました。

 確かに、胃腸の調子や便通が良くなった気がしましたし、身体が野菜を求めていると感じる日々を送りました。一方で、正直、なんだか味気ない気がして、1日でもその生活から離れると元の好きなものを食べ始めたりしていました。極端な前進から極端な後退になっていたのです。

 今はNoomという健康管理・体重管理のアプリを使って、食事のバランスを取ることを習得中です。一進一退の日々を過ごしながらも、少しずつましになってきています。


 栄養士を頼ろう

 がん患者さんの場合は、さらに体調や精神面などの負荷がかかります。がん種や治療の状況によっては、食生活の改善などと大上段に構える以前に、食事そのものが思うようにできない場合もあるでしょう。

 

 今まで多くの患者さんをサポートしてきた経験から、そんなときには、体重減少を避けるため、食べられるものでカロリーを摂取することが大切だと思います。

 ウォルフォードさんは記事で、栄養士に何ができるかを具体的に伝えています。誤った情報に惑わされず、栄養士を頼ることも勧めています。  食生活においても、治療の場合と同じで、ネット情報などに安易に引きずられないことが重要なのです。我流に走らず、積極的に栄養士に相談していきましょう。


上野美和(うえの・みわ) 1964年、和歌山県生まれ。大阪薬科大学を卒業後、薬剤師の資格を取得。1991年、結婚を機に渡米。出産後、MDアンダーソンがんセンターでのボランティアを経てリサーチナース、データマネージャーを務める。2002年にメディエゾンLLC(合同会社)を立ち上げる。米国でセカンドオピニオンや医療、医療従事者への医療研修を受けたい人をサポートしている。

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