劇場公開は中止になったけれど
「えっ、マジで?」 一瞬、驚きました。
Zoomでつないだ画面の向こうで、映画監督の野澤和之さんが「編集はしないから、よろしくねっ!」と明るく、気安く言ったときです。
プロが編集なしで映像をアップするとは「想定外」でした。“甘え”は吹き飛び、一気に身が引き締まります。
私が出演させていただいたのは、「映画『がんと生きる 言葉の処方箋』応援チャンネル」という動画です。
「がんと生きる 言葉の処方箋」は、野澤監督が2018年に完成させたドキュメンタリー作品。がん哲学を提唱した順天堂大学の樋野興夫先生とがん哲学外来カフェの人たちにフォーカスし、がんになった人たちが、副作用ゼロの言葉の処方箋を糧に道を切り拓いていく姿を生き生きと描いています。
劇場や自主上映で公開されていましたが、2020年春、新型コロナウイルスの影響で相次いで上映中止となりました。
その代わり、4月末から、応援動画が始まったのです。出演する人は、好きな言葉を2つほど挙げて、それについて語ります。1本5分前後。コンパクトながらも、それぞれの思いやストーリーが濃縮されています。
動画はすべて、YouTubeにアップされています。私は9月の4連休初日、47番目に出演しました。 https://www.youtube.com/channel/UCc4rcVO_bMtoKYyUaSjIxLg
八方塞がりでも天は開いている
動画では、がん哲学外来と関わる出演者が多いこともあって、樋野先生の言葉を挙げる人が目立ちます。
私もそうしました。 1)八方塞がりでも天は開(あ)いている 2)人生にはもしかしたらこのときのためと思えることがある
実は1)は、ずっと前に、別の方からも聞いた言葉でした。佐藤久男さん。故郷の秋田県を中心に自殺対策の活動をしている方です。
佐藤さんは、1943(昭和18)年生まれ。経営していた不動産会社が2000(平成12)年に倒産し、自らも命を絶とうかと思うほど追い込まれます。
知人の経営者の自殺をきっかけに、「倒産ごときでなぜ死ななければならないか」と、「NPO法人蜘蛛の糸」を立ち上げて、中小企業の経営者をはじめ何千人もの相談に乗ってきました。
佐藤さんの面談は、対面、無料、時間制限なし。各方面の民間を軸に、「学」「官」とも連携します。秋田県の自殺者は、2003年をピークに、2018年には4割以下に減りました。
佐藤さんがよく口にする言葉の1つが、 「八方塞がりでも上と下は開いてるべ」 だったのです。現実には、「下=地」が開いていたら落ちてしまいますが(笑)。
命と向き合っている人から同じ言葉が出てきた――。驚き、感銘を受けると同時に、言葉の力を改めて思いました。
佐藤さんはほかにも、 「すべてが終わるから新しいものが生まれる」 「なくなったものを数えないんだよ。あるものを数えればいい。どんなときにも、私何あるべなって数えればいいんだよね」
「心に太陽、体に休養だべ」 「頭の中に2割ぐらいの空間があって、そこに風がぱーっと吹いて、太陽の光が射している。そんなイメージがいいです」 などと印象的な言葉を紡いでいます。
無茶振りに感謝
動画がアップされたあと、1本のメールが届きました。 私の前、46番目の動画に登場された笠島(かさしま)由紀さんからです。笠島さんは希少がんのサバイバーで、さまざまな活動をされています。
動画には「ウクレレチームサンライズ&キャンサーフラおばちゃん・TEAM ACC」として、お嬢さんと一緒に登場。言葉を絵はがきにしていて、最初に「どんなきもちにもなっていいんだよ」を挙げていました。
私へのメールにはこうありました。
《中村智志さんのYouTubeを見てビックリしました‼️ 私がお願いした、ハワイアンレイ(花)を付け、私が作ったうちわを持っている写真が出てきました! こんなところで繋がっていたなんて、そして私の無茶振りを喜んでいただき感謝しかありません》
動画出演にあたり、野澤監督から写真を2枚求められ、その1枚が、笠島さんがメールでお書きになっている写真だったのです。
昨年8月、「認定NPO法人キャンサーネットジャパン」のイベント会場でレイをかけてもらい、 撮った写真でした。そのときの気持ちは、スタッフ便りにも書きました。 https://www.gsclub.jp/tips/11052
人のつながりがループのように伸びていく。こういう「想定外」は大歓迎です。無茶振りに感謝したいのは、私のほうでした。