みなさんは、「リンパ浮腫」をご存知ですか?
がんのココロ・第21回「治療の“いらないオマケ”にこんにちは 〜後遺症・合併症と出会う〜」で紹介したように、リンパ浮腫は、がん治療のオマケの一つ。手術の際にリンパ管を切ったり、リンパ管のところどころにある「リンパ節」を取ったりが原因で起こることがある浮腫(むくみ)です。
私のリンパ浮腫は、手術から6年後に、途端に悪化してしまいました。今春には、症状を軽減するための手術を行う予定。そんなリンパ浮腫体験と治療への道が、今回のお話です。
一生モノの「リンパ浮腫」
私が子宮頸がんの手術をしたのは、2013年。
「キグチさんの場合は、子宮や卵巣などの摘出と同時にリンパ節を取る必要があるため、術後は足にリンパ浮腫が起こる場合があります」と説明がありました。
「術後は、一生、足にケガをしないように」
「毎日、リンパを流すマッサージを行うように」
ケガは、切り傷はもちろん、靴擦れも、毛剃りで付く微細な傷もダメ。傷口から細菌が入ると足に炎症を起こして合併症を起こすことがあり、ついには、とんでもなくむくんで戻らなくなったり、皮膚が硬化したりする可能性もあるそう。
症例として見せてもらった写真にじんわりと恐怖を抱いた私は、「マッサージを忘れたら足が太くなる!!」との思いにかられ、どんなに疲れていようが、抗がん剤の副作用で気分が悪かろうが、毎日欠かさずマッサージをせずにはいられなくなりました。
でも、意外と悪化しなかった!
「自分でケアできるときはいいけれど、事故にでもあって足にケガをしたうえ、意識がなかったり、動けなくなったりしたらどうなるのだろう!?」
……私は、よく想像で不安になります。そして、なぜかまんまと心配したような事態になってしまうという。
私に起こったのは事故ではなく、ある日、突然起こった術後合併症の腸閉塞。緊急手術の後は、しばらく寝たきりの状態でした。その間、マッサージどころか足に触れることさえできず。
ところが、リンパ浮腫は一向に悪化しない……。そこで初めて「もしや、私は必要以上に怖がっていたのでは!?」と気づき、緊張は急降下。「そこそこ心配しておこう」くらいまで落ち着きました。
いきなりの発熱。「6年も何ともなかったのに……」
以降、時々むくみはするものの、リンパ浮腫ケアを学んだ看護師さんの指導と、状況に応じたマッサージ、足全体を強く圧迫する医療用の「弾性ストッキング」でのケアで、仕事や生活に大きな支障もなく暮らす日々。悪化しない人も多いと聞き、「私もその一人に違いない」とタカをくくっていました。
……そして、6年が経ったある夜。突然、39度の高熱に見舞われました。全身の筋肉の痛みと強い寒気で眠ることもできず。「インフルエンザだ!」と自己診断したものの、何かがおかしい。
太ももが広範囲に腫れて熱を持っているし、過去になったインフルエンザとは気分の悪さも違う。
「う〜ん、何だろう」と考えることしばし。「ハッ! もしやリンパ浮腫の何かでは!」と、ようやくピンときたのでした。
診断は、「リンパ管炎(蜂窩織炎/ほうかしきえん)」。6年も何ともなかったのに、いきなりそんなものになるとは。おまけにそれ以降、たびたび発症するようになってしまいました。
リンパ管炎は細菌感染が原因なので、基本的な治療は抗生剤の投与。私も毎回、5日間程度の投薬と安静でよくなっていましたが、場合によっては入院が必要です。
しかし、新型コロナウイルスが流行りだしてからは、発熱していると病院に入るだけでも普段通りにはいきません。主治医と遠隔で相談し、自宅で投薬治療をしたあと、熱が下がってから診察を受けるなどしていました。
本格的治療へ
不思議なのが、足にケガをしていなくても、何度も蜂窩織炎になってしまうところ。全身が非常にだるく、起きていられないほどになることもあります。
リンパ浮腫が悪化する原因となるのは、傷のほかに水虫などの病気、体重増加、疲労やストレスなどもあるそう。たしかに体重は(だいぶ)増えている……のはひとまず後にして、主治医から専門医を紹介してもらうことになりました。
そして訪れたリンパ外科。患者がたくさんいても、何人もの看護師が問診にあたるなどの連携でほどよく回転しているようでした。
医師は、事前に「ナイスなスマイルの芸能人っぽいプロフィール写真」を見ていたからか、アイドルにでも会った気分。テンションが上がります。
「6年も経って発症するのか」「調子が悪いときの対処法」など、ズラリと書き留めておいた質問にも淀みなく答えてくれました。
早速、この日から検査を始めるとのこと。「こんなにテキパキと進んでいくのか!」と、改めてリンパ浮腫の治療は、すでにある程度きちんとした道筋ができていることを感じました。
受けたのは、心電図検査、血管伸展性検査、下肢静脈超音波検査、リンパシンチグラフィ検査です。
特に楽しかったのが、リンパシンチグラフィ検査。放射性薬剤を注射後、時間をかけて何度も撮影します。その間、大掛かりで最先端な医療機器を独占できて、ちょっといい気分。
途中に「運動をしてください」と指示があり、待合室で一人、検査着でスクワットをするヘンな患者になるという。なかなかに面白い体験でした。
結果、私のリンパ管は機能しているけれど、リンパ液が下腹部に溜まってしまい、流れなくなっている状態でした。このまま悪化していくと、正常なリンパ管も壊れてしまうかもしれないとのこと。
「リンパ管と静脈をつなげる手術(リンパ管静脈吻合術/LVA)が効果的だろう」との診断で、手術を行うことになりました。それがダメなら、次の方法に移ります。
「できることがある!」という希望
私ががんになった2013年当時、リンパ浮腫は、まだ治療法が整っていない段階でした。リンパマッサージや弾性ストッキングのほか、手術で治す方法もあるにはあったけれど、「効果があるような、ないような」とあいまいで科学的根拠がなく、自分でトライして検証するといった具合。自分で調べてみても、それ以上の情報は出てきませんでした。
主治医の勧めがないうちは、手術を試そうという気もなく。「このままずっと、対処療法でやり過ごすしかないのだろう」と思っていました。
そのため、主治医から「リンパ外科の先生に診てもらおう」と持ちかけられたときは、新たな道が開けた気分になったものです。
このときはまだ「リンパ管の状態を調べたら、わかることがあるかも」くらいの前進でした。でも、「何かできることがある!」というのは、それだけで大きな希望になるのだと感じました。
「近年は、リンパ節を取らないようになってきている」と主治医。それならば、今後、リンパ浮腫の患者は少なくなっていくかもしれません。それはいいことではあるけれど、逆に「治療法の研究が進まなくなるのでは」と不安に思っていました。
そんななかでも研究を進めてくれている医療者がいると知ることができました。とてもありがたいし、うれしくもあります。
手術後に、また体験レポートを書く予定です。局所麻酔のため自分でも手術の様子を見られるそう。コワいような、楽しみなような。