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佐々木常雄の「灯をかかげながら」
第12回 放射線治療、 コロナ流行下で 毎日の通院が必要ですか?

掲載日:2021年3月26日 10時00分

 がんを狙い撃ちする精度の高い治療が可能に

 放射線治療中の乳がんの患者Mさん(81歳、女性)からこんな質問がきました。 「こんなコロナの中で、放射線治療のためにB病院に毎日電車で通っていますが、せめて週1回くらいにできないのでしょうか?」 確かに、コロナ流行の中で、月曜日から金曜日まで毎日、通いたくない気持ちはよく理解できます。

 
 一般的に、がんの放射線治療では、放射線ががん細胞にあたることによって、遺伝子に傷をつけて、がん細胞を死滅させます。正常な細胞も当然、放射線の影響を受けますが、がん細胞よりもかなり速いスピードで遺伝子の傷を修復できるのです。  つまり、少しずつ放射線治療を繰り返すことによって、照射と照射の間に正常細胞は修復され、がん細胞は、修復されないうちにまた照射され、ダメージは大きくなります。それでがん細胞は死滅していきます。  要は、正常組織を放射線からかばいながら、がん細胞をやっつけていくという方法なのです。    ですから、もし、正常細胞にまったく影響を与えず、がんだけに照射できるのであれば、一回の大量の放射線治療ですむわけです。    また、放射線治療に効きやすいがんと効き難いがんがあります。  どんどん大きくなるがんは、がん細胞が盛んに分裂し増殖していきます。分裂の盛んな細胞は、放射線によって遺伝子に傷がつけられやすい、つまり放射線の影響を受けやすいのです。    最近は、コンピューターによって、放射線が正常細胞にあたるのをなるべく少なくし、がん細胞に強くあたるように工夫された治療機器が開発されてきています。強度変調放射線治療といって、がんを狙い撃ちする精度の高い治療ができるようになってきました。


 ロボット技術を活用した治療法も

 以下、その3つの治療法を示します。

TomoTherapy(トモセラピー)【都立駒込病院HPより】

 TomoTherapy(トモセラピー)では、毎回治療の直前にCTを撮影し、がんが小さくなってきた分、照射範囲を小さくする。たとえば、前立腺がん治療では直腸への照射を非常に減らすことができます。  第4世代のCyberKnife(サイバーナイフ)では、ロボット技術により多方向から一点に集中して治療を行うことで高精度の定位(ピンポイント)放射線治療ができます。患者さんのわずかな動きを感知して、正しい位置に補正して照射するため、1mm程度の誤差の高精度なピンポイント治療ができます。主に脳腫瘍、転移性脳腫瘍等の治療に使われ、1回で治療が終了する場合と複数回に分けて行う場合があります。  VERO-4DRT(ヴェロ)という動体追尾放射線治療装置では、呼吸による体内の臓器の動きに合わせて放射線が出て、動体を追尾しての治療ができます。つまり、肺がんのように呼吸で動くがんで、がんだけに放射線をあてたい場合にとても有効です。ミサイルを追尾して迎撃するのと同じ考え方の治療法ですが、まだ国内では少ない台数しかありません。


 正常細胞へのダメージが少なくてすむ粒子線治療

 他に、放射線治療には、粒子線治療というのがあります。粒子線はX線と違って、からだの中をある程度進んだあとに、急激に高い量の放射線が発揮され、そこでぴったり止まるのです。  がんがある場所の深さで最もエネルギーを出すようにすると、がんに集中して放射線照射ができ、放射線の通り道である前後の正常細胞はダメージが少なくてすむのです。  粒子線として用いられているものに、中性子線、陽子線、炭素イオン線があります。ヘリウムイオンより重い粒子のビームをまとめて重粒子線と呼びますが、稼働している重粒子線治療施設で用いているのは炭素イオン線のみです。  粒子線治療施設の装置には莫大な費用がかかり、また治療費も高額ですが、前立腺・頭頸部・骨軟部等では保険適用が認められています。  もちろん、放射線治療装置の発達は、その効果と有害事象を減らすことが大事で、治療回数ばかりの問題ではありません。  話は元に戻りますが、がんの種類によっては、寡分割照射(1回線量2Gy以上に増やす方法)を採用している病院もあるようです。結果として、治療回数を減らす方ことができるわけです。  お悩みの方は通院回数について、放射線科の担当医師に相談してみたらいかがでしょうか。

シリーズ「灯をかかげながら」 ~都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員 佐々木常雄~

がん医療に携わって50年、佐々木常雄・都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員の長年の臨床経験をもとにしたエッセイを随時掲載していきます。なお、個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。


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