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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第4回 私のがん体験④~職場復帰から今日まで

掲載日:2021年8月12日 13時53分

 頸部食道がん(食道入口のがん)の再発から仕事に復帰したのは2012年の年明けでした。

 手術で声帯も切除し、対面のコミュニケーションは電子メモによる筆談になりました。部内や部門全体の会議では、パワーポイントを使って無言で復帰の思いと感謝を伝えました。

 その年の春の異動で、人事部長職から部下なしのサポート的な立場に変わりました。複雑な思いも多少はありましたが、私に無理をさせないための温かい配慮だと受け止めました。 当時の社長から、「人間のプロになれ」と言われました。以前に同じ部署で苦楽を共にした人からの言葉を「仕事のプロ」に対する「人間のプロ」と受け止め、心に刻み付けました。


声を取り戻し、使命を実感する

 

 退院後から通い始めた食道発声教室には、復帰後も仕事を抜けて通学しました。今では、声の大きさやスピードには制約はあるものの、会話もできるようになっています。訓練の過程を通し、「声帯がなくても声が出るようになるくらいだから、やろうと思って積み重ねれば、すぐにはできなくても大抵のことは実現できるのではないか」。そんなふうに思うようにもなりました。

 食道発声教室を卒業する2014年頃からは、自らに問い続けました。自分にしかできないことをいずれやるために、今、自分にできることとは?これから生きていく意味とは?あるいは、今後も働いていく意味とは?

 かつて社内研修で取り入れていた「人生の目的と使命」という考え方を自分に引き寄せ、たどり着いた思いは、「私の使命は人々に勇気や希望を提供することだ」というものです。勇気や希望というと大げさですが、毎日を過ごす上での少しばかりの後押しやヒントでもよいので、家族や会社の仲間、友人、そして社会に提供していきたい、と実感したのです。

 この思いをもとに、その後、社内で自分のやりたいことを宣言して実行する専門職の役割となり、社内で闘病体験を語る会、治療と仕事の両立支援策の推進、あるいは管理職を中心とした対話の場づくりなど、様々な取組みを始め、今に至っています。


人はなぜ働くのか

 

 人が働くことには、様々な目的や意味があります。生活のためにお金を稼ぐということ。これは本当に切実なことでしょう。とはいえ、たとえお金が保証されたとしても、それでも働きたいという人も少なくないような気がしています。

 私は、働くことの意味は人とのつながりを実感し、自らの存在価値を再確認するということにあるのでは、と思っています。そのことは、生きるか死ぬかに直面したがんサバイバーであれば、尚更ではないでしょうか。

 がんサバイバーにとって生きていく上で重要な就労に関する問題を次回以降、様々な切り口から書いてまいります。

村本高史(むらもと・たかし) サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター 1964年東京都生まれ。1987年サッポロビール入社。2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。

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