「人と会っていません。外出するのは病院とスーパーくらいです」 「病院に行っても、感染が怖いから、ほかの患者さんとも話さず一目散に帰宅しています」 コロナのことが起きてから、ホットラインへの電話で、こうした声をたくさん聞いてきました。
がんの患者さんは、治療内容によって感染しやすい状態になることがあるため、より一層、気をつけた生活をしています。こうした生活は、感染のリスクを遠ざけるのと同時に、人や社会とのつながりをも遠ざけ、これまで以上に、患者さんを孤独に、そして孤立した状態にさせていると感じています。
この乳がんの方もそうでした。 「ずっと引きこもっているから、孤独です。がんまで悪くなりそうです……」
以前は、フィットネスクラブに通って、インストラクターやほかの利用者と会話を楽しみながら体を動かしていたそうです。気分転換になるうえ、適度な運動もできて心の安定を保つことができていたといいます。
しかし、今は世界に1人取り残されたような気持ちがしたり、生きている実感が薄れていたりするといいます。体重も増え(乳がんは肥満がよくないとされます)、再発しないかという心配まで加わったと、溜息交じりに話される声には、不安がにじみ出ていました。
気分転換の機会が減り、がんのことを考える時間が増えて、さらに不安が大きくなっているのです。
そんななかでも、相談者の方たちが、なんとか続けていることによくあげるのが「散歩」です。 ただ、今の生活が1年以上になりますから、「歩くのは飽きた」「一人で歩いていても寂しい」と、歩くことにも苦痛を感じている方が増えています。 そうかといって、運動不足になるのも心配だから歩かないのもまた不安……。
それなら、例えば、友人や患者仲間、離れて生活する家族などと、同じ時間に歩く、道端に咲くきれいな花を見つける、面白い雲を写真に撮って送りあう、といったぐあいに、テーマを決めてゲーム感覚で散歩を楽しむ工夫をしてみてはいかがでしょうか。喜びを共有できたり、発見を分かち合えたり、いろいろ楽しめるものです。
一人で行うなら、スマートフォンのアプリも活用できます。ゲーム仕様のアプリが出ていたり、住民の健康増進のために、オリジナルのアプリを作っていたりする自治体もあります。
日本対がん協会でも「RFLセルフウォークリレー」※といって、専用アプリを使ったがん患者さんに寄り添い歩くチャリティーウォークを実施しています。患者さんもたくさん参加しています。 同じ時を同じ目的で歩いている人がいる。些細なことかもしれませんが、「自分は一人じゃない」とどこかに感じられて、気持ちが救われることもあるでしょう。
歩いてつながる――。試してみてはいかがでしょうか。
※日本対がん協会 セルフウォークリレー 詳しくはこちらから