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クリコ流ふわふわ介護ごはん
第1回 食事は料理を見るところから始まっている

掲載日:2021年10月1日 9時30分

口腔底がんで、ものを噛む機能に障がいが

 「口腔底がんだって。ステージ3だって…。」

 携帯電話からの夫の言葉が理解できませんでした。

「えっ! えっ! こうくう…何?」と問い返しながらも、ただならぬ事態が起こったことはわかりました。血の気がサーッと引いたのを今もはっきり憶えています。

 私の夫、アキオは2010年の夏に肺がんを手術し、その1年半後に口腔底がんが見つかりました。  東北地方を中心に未曾有の被害を引き起こした大震災の年。

 日本中で、その動揺や混乱が収まらないまま迎えた秋のことでした。

 はじめまして。 料理研究家・介護食アドバイザーのクリコです。

 2度目のがん。夫を失いたくないという思いだけが心を満たしていました。

 口の中を大きく切除する手術は成功しましたが、下の歯で残ったのは左奥歯1本だけ。下顎の麻痺、ものを噛む機能に大きな障がいが残りました。

 おかゆや流動状のおかずを1時間半かけても半分食べきれないほど、食べる力は大きく損なわれていました。食べること自体に疲れ果て、体重は7キロも減り、夫の顔から笑顔が消えていました。


アキオの笑顔は私が取り戻してみせる!

 私たちは食べることが大好きな夫婦でした。病気以前は美味しいと評判のお店を巡ったり、旅先で郷土料理を楽しんだり。夫のために毎日せっせと台所に立つ時間が、何よりもの幸せでした。

 毎日普通にごはんを食べられることが、どれほど幸せなことなのか。  何気ない日常を失ってみて初めてその尊さがわかります。

 噛む力や飲み込む力が弱い人のための食事を「介護食」と言うことを知った私は、介護食作りに役立つ情報を探しましたが、2011年当時、何一つ手に入れることができませんでした。

 噛めないアキオでも美味しく食べられる食事を私が作ってみせる。「アキオの笑顔をぜったい取り戻してみせるんだ。」

 はじめての介護食作りは、こんな必死な思いでスタートしました。

 一日中キッチンにこもり、試行錯誤の末に作った食事を、夫は「美味しい!美味しい!」、「クリコは天才!」と喜んでたくさん食べてくれました。

 順調に回復し、再び大好きな職場に復帰した夫の顔には、いつもの笑顔が戻っていました。

 残念なことに、肺がんの再発で、がん闘病3年半で亡くなりました。

 夫や私のように食べることや食べてもらうことに悩みを抱えている方に、私の介護食作りの経験がお役立ていただけるかもしれない。そんな思いから介護食アドバイザーの活動をはじめました。


病人食、介護食だからこそ、味だけでなく見た目が大事

 食事は料理を見るところから始まっているのだと私は思います。単に栄養さえ取れればいいのではなくて、「わ〜美味しそう、早く食べたい、どんな味なんだろう」、そういうワクワク感がとても大切なのだと思うのです。

 病人食や介護食だから見た目は二の次ではなくて、だからこそ味も見た目も大事にしたい。何より、食べる人の喜ぶ顔を見たいから、私は味だけでなく料理の見た目に強くこだわってきました。


クリコ流ふわふわ介護ごはんは、素材作りから

 トンカツを食べさせてあげたい!でも、細かく刻んでも硬いものは硬い。ならば、水を加えてミキサーにかければ食べ易くなる! これも食べ易くする一つの方法です。

 でも、見た目がトンカツで、しかもお箸やスプーンですっと切れるくらい柔らかく作れたら、その方が食べる人は嬉しいですよね。

 そこで思いついたのが、加熱しても硬くならない手作りの肉素材や魚介素材です。見た目はどこから見てもトンカツ、エビフライ、ホタテのソテー、タラのフリット、鮭の香草パン粉焼き…。でも、食べたら柔らかくてすっごく美味しい。この手作り素材を使えば、そんな肉や魚介料理を作れるんです。

 野菜もたくさん食べて欲しいですよね。

 野菜を茹でてすりつぶしたピュレにいろいろな食材を組み合わせれば、主食からデザートまで栄養満点で彩り豊かな料理がパパッと作れちゃいます。

 例えば、かぼちゃのピュレがあれば、かぼちゃのポタージュ、リゾット、ニョッキ、サラダ、プリンなどなど、レパートリーは無限大です。

「クリコ流ふわふわ介護ごはん」でご紹介する料理は、舌や歯茎で潰せる柔らかさの料理が中心です。食べる方だけでなく、ご家族皆さんで美味しく召し上がれるレシピをたくさんご紹介してまいります。

 介護食作りの楽しさもお伝えできれば嬉しいです。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 第1回目のメニューは、かぼちゃのピュレで作る「かぼちゃのフラン」です。

 フランはフランス風の茶碗蒸し。かぼちゃの甘みと卵とミルクのコクが口いっぱいに広がって止まらない美味しさです。ハロウィンにもぴったりの一品ですよ。

かぼちゃのピュレ

【作りやすい分量】
材料名分量
1かぼちゃ(皮と種を取り除いたもの)100g
2大さじ1〜2
2ひとつまみ
  1. かぼちゃを1.5cm角に切り、耐熱容器に入れ、水と塩をなじませる。
  2. ラップなどで蓋をし、600Wの電子レンジで4〜5分加熱する。
  3. 熱いうちにマッシャーでつぶす。裏ごし器で裏ごしするとより滑らかになる。
  4. *まとめて作って小分け冷凍容器に詰めて冷凍保存すると便利。

かぼちゃのフラン

【プリン型2〜3個分】
フラン生地 材料分量
1かぼちゃのピュレ50g
250g
3生クリーム50g
4牛乳50g
5鶏ガラスープの素小さじ1/2強
ソース 材料分量
1クリームチーズ18g
2牛乳10cc
飾り 材料分量
1茹でたかぼちゃ少量
2無塩バター適量
  1. かぼちゃのピュレを用意する。
  2. ボウルにフラン生地の材料を入れ、よく混ぜて裏ごす。
  3. プリン型の内側に無塩バターを塗り、2を八分目まで注ぎ入れる。
  4. 充分に蒸気が上がった蒸し器に3を間隔をあけて並べる(器の蓋はしない)。蒸し器の上に菜箸を2本渡し、すき間を作って蓋をする。最初は強火で3分加熱する。さらに弱火(蒸気が静かに上がる程度)で約20分加熱する。竹串を刺して何もついてこなければ火を止め、蓋をして3分蒸らす。
  5. ソースの材料を小鍋に入れ弱火にかける。混ぜながらなめらかなソースを作る。
  6. 4に5のソースをかける。茹でたかぼちゃを好みの形に切り、添える。
  7. *冷たく冷やしても美味しい。
クリコ
料理研究家・介護食アドバイザー
本名は保森千枝(やすもりちえ)  自身の介護経験から、加熱しても固くならない手作りの肉・魚介素材を考案。柔らかく、見た目に食欲のわく肉・魚介料理のレシピを多数開発。野菜ピュレを活用した野菜料理は、主食からデザートまでレパートリも豊富。  食べる人だけでなく作る人も一緒に楽しめる、そんな家庭の食卓作りをモットーとしている。 【Webサイト】 「やわらかい・飲み込み安い クリコ流ふわふわ希望ごはん」 https://curiko-kaigo-gohan.com/ 【主な著書】   「希望のごはん」(日経 BP社) 「噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん」(講談社)
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