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第63回 リンパ浮腫を治したい! 専門医に聞いてみた 〜リンパ外科医 三原 誠先生・原 尚子先生インタビュー〜(前編)/木口マリのがんのココロ

掲載日:2021年10月25日 8時30分

 リンパ浮腫は、がん治療における後遺症の一つです。現在、国内で約20万人の患者がいると言われています。私も、まんまとその一人になってしまいました。  

 婦人科の主治医の勧めで、リンパ浮腫の専門医、三原 誠(みはらまこと)先生と原 尚子(はらひさこ)先生の診察を受けることになったキグチ。  そこで驚愕したのが、「リンパ浮腫の治療は、こんなに進んでいたのか!!」ということ(ここまでのお話は、第56回「木口マリのがんのココロ『リンパ浮腫が悪化した!〜治療体験レポート〜』」https://www.gsclub.jp/tips/15973をご覧ください)。  

 これは、世の中のリンパ浮腫に悩むみなさんにお伝えせねば。直ちに三原先生&原先生に取材を持ちかけました。「ぜひ、やりましょう!」とのことで、実現したのが今回のインタビューです。  

「リンパ浮腫の基礎知識」「リンパ浮腫に一番よくないものは!?」「自分でできること」「最新の治療法」など、私が実際に治療を受けてみての感想を織り交ぜながらお伝えします。(全2回)  

 ちなみに三原先生は、第56回がんのココロで「ナイスなスマイルの芸能人っぽいプロフィール写真を見ていたからか、アイドルにでも会った気分だった」として登場した先生です(笑)。

Contents: ●リンパ浮腫になる確率は、5〜25% ●リンパ浮腫になりやすいがんの種類は? ●虫刺されやケガは、本当にダメ? ●リンパ浮腫に一番よくないのは、○○! ●自分でできるコト①「運動と栄養管理」〜運動は、がん患者にオススメ!〜 ●自分でできるコト②「スキンケア」「マッサージ」は、“観察”がポイント!


●リンパ浮腫になる確率は、5〜25%

リンパ外科医、三原先生(左)と原先生(右)にお話をうかがいました!

 がん治療におけるリンパ浮腫は、主に、子宮がん、卵巣がん、乳がんなどの手術をする際に「リンパ節」を切除(=郭清/かくせい)することによって起こります。  

 手足のリンパ液は、リンパ管を通り、腕から心臓へ、もしくは足から心臓へと流れていきますが、リンパ節があるのはその途中。リンパ節は、言わば悪者を通さない「関所」のようなもので、病原体などを食い止めてやっつける免疫器官なのだとか。  もし、リンパ節でがん細胞をやっつけきれなかったときは他の臓器へ移ってしまうかもしれず、それを防ぐために、手術でリンパ節を取り除くわけです。  

 そんなわけで、関所(リンパ節)は、街道(リンパ管)ごと寸断。道がなくなれば流れが滞ってしまうのは、当たり前といえば当たり前な気がします。  

 しかし、リンパ節を取った人がリンパ浮腫になる確率は「5〜25%」だそう。意外と低いような……!?  

「人間の体には修復力や予備能力があります。リンパ管が再生したり、リンパ管と静脈がくっついたり、もともとあったけれど使っていなかったルートを使うようになったりします。そのように体が順応していく人がほとんど。その場合は、リンパ浮腫になりません」。(三原先生・原先生)  

 キグチを含め、「なったらどうしよう!」と不安でいっぱいになるがん患者さんは多くいますが、体の力を信じておくのも大事だと感じました(当時の自分に言ってあげたい)。  

 でもやはり、「その5〜25%に当てはまるかも」と不安になってしまうもの。  それを少しでも解消するには、きちんとした知識を得ることが大事。気をつけるポイントや、万が一なってしまったらどうすればいいのかを知っておけば、かなり安心です。  

●リンパ浮腫になりやすいがんの種類は?

「がん治療後のリンパ浮腫の患者さんは、90%以上が女性」と、原先生。それは、子宮がん、卵巣がん、乳がんなど、女性のがんの治療が原因となることが多いためです。  

 そのなかでも一番、発症の確率が高いのは「子宮頸がん」。理由は、足の付け根のリンパ節を取ることがあるため。子宮体がんはお腹の上の方の治療になるため発症率は下がります。  

 驚いたのは、「乳がんでのリンパ浮腫は、昔に比べるとかなり減っている!」ということ。  その理由は、「センチネルリンパ節」(がんが最初に転移するリンパ節)の検査をして、そこに転移がない場合はほかのリンパ節を取らない方法が、近年の乳がん治療で取り入れられているため。  

「腋窩(えきか/脇の下)のリンパ節を取ると、20%くらいの方がリンパ浮腫を発症しますが、センチネルリンパ節生検を行った場合は、リンパ浮腫発症率は5%くらい。そのため、全体としてリンパ浮腫になる人の割合が減っています。発症しても、軽症の方が多くなっています」(原先生)。  

 また、女性に多いとはいえ、男性がならないというわけではありません。 「近年では、前立腺がんで放射線治療を行なった男性の発症も多くなっています」と、三原先生。  

 そのほか、低い確率ながら、大腸がんの治療後になる人もいます。また、一部の抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル)が、リンパ管に影響を及ぼすことも。抗がん剤は全身に巡るため、腹部のがんのための治療でも腕などがむくむ人もいるのだとか。  

●虫刺されやケガは、本当にダメ?

 「足(腕)に傷をつけてはいけない」「虫刺されや、日焼けをしてはいけない」等々、医師から注意するよう言われたことのある人は多いのではないでしょうか。実際、どの程度心配すべきなのか、気になるところ。   

答えは、「ない方がいいけれど、絶対ダメ! というほどではない」(原先生)。  

「虫刺されや、ちょっとしたすり傷をすべて避けるのは無理ですよね。それよりも、日頃のケアが重要。しっかりとケアができていれば、大事には至らないことが分かっています。虫刺されを心配して外に出ないのではなく、積極的に健康的な生活をしてもらいたい」(三原先生)。  

 予防のためのケアとは、「スキンケア」「体重管理」「運動」。患部を圧迫する「弾性ストッキング・弾性スリーブ」や、「マッサージ(リンパドレナージ)」は、リンパ浮腫が起きたあとに行うケアです。(※後述の「●自分でできるコト②」を参照)  

●リンパ浮腫に一番よくないのは、○○!

 最もリンパ浮腫によくないものは、何だと思いますか?  それは……「肥満」!!  

「もともと肥満であることや、手術後の体重増加が大きく関わってきます」(三原先生)。  

 ……ガーン!!  そういえば、私の足が悪化したのも体重が増え始めたころ。服がきつくなったのを自覚しつつも「中年」を理由に、あらがえない自然の流れのようにスルーしていました。  といっても、見た目には太すぎでもヤセでもない「普通」。「外見は大丈夫だし」と思っていても、リンパ管には負担となっていたのかも。ムムム。  

「がんになったら運動しよう!」と力説する三原先生。

 しかし、落ち込むなかれ。 「2〜3kg減量するだけでも、むくみが格段に改善することがあります」……!!  

●自分でできるコト①「運動と栄養管理」〜運動は、がん患者にオススメ!〜

検査でもらった「静脈とリンパ管のエコー画像」。なぜかちょっとうれしい。

 そんなわけで、リンパ浮腫の予防や改善に重要な「体重コントロール」。その方法は、当然のごとく「運動と栄養管理」です。  

  「う〜ん、運動って、ちょっと面倒くさい……」と思ったアナタ。運動は、リンパ浮腫にいいだけでなく、「がん患者に、いいコトがたくさん!」なのです。  

  「 “がんと診断されたら、まず運動”というのが、新しい考え方です」と、三原先生。  

  「2019年、米国スポーツ医学会で『がんサバイバーのための運動ガイドライン』が出されました。『眠れない、倦怠感がある、不安が強い、リンパ浮腫』などに効果があることが科学的に証明され、運動を推奨するようになっています」。  

   リンパ浮腫予防や改善のみならず、がんの手術後のリハビリが順調に進む、不安の解消、がんの再発予防の効果もあるとか……!  

   体重コントロールのための運動として三原先生が勧めるのは、「ウォーキングを1日7,000歩」など。目標は、適正体重(=身長m×身長m×22)。ポイントは、疲れすぎない程度に、気持ちがいいと感じるくらいで行うこと。  すでにむくみの症状が出ている場合は、医療用の弾性ストッキングや弾性スリーブで圧迫した状態で行うと効果的です。  

   食生活の改善は、「栄養管理アプリ」などのスマホ技術を利用するのも手。AIの管理栄養士さんが、食生活の管理やアドバイスをしてくれるアプリもあります。  

   ただし、注意点も。 「『健康な人が短期間で行う体重コントロールとは違う』と、頭に入れておいてもらいたい」と、三原先生。   

  「“3カ月で6kg減”などの急な減量は、6割の人がリバウンド(元の体重より増加)します。リバウンドすると、精神的に2回目はできなくなってしまうんです。がん患者さんには、半年で500g〜1kg減らすくらいの緩やかなダイエットをお勧めします」。  

   私も、万歩計アプリや栄養管理アプリを使って減量中ですが、これがなかなか面白い。数値やグラフになることで、「こんなに歩けた!」「この栄養が足りていない」などがはっきりと理解できるという。  しかし、「コレでホントに落ちるのか?」などと疑っていたキグチ。しばらく続けてみたら、本当にゆっくりと体重が下がっていきました。  

   ちなみに、三原先生と原先生も栄養管理アプリを使っているそう。先生とおそろいは、何となくうれしい(笑)。  

●自分でできるコト②「スキンケア」「マッサージ」は、“観察”がポイント!

アプリで食の管理をしていたら、本当に体重が落ちていきました。

 スキンケアとは、何てことはない、「清潔と保湿」です。 毎日お風呂で体を洗い、乾燥させないようにクリームなどで保湿します。  

 しかしその意味は、肌を守ることだけではありません。毎日、手足に触れることで「炎症がないか」「傷がないか」など、体の状態を観察するためにも重要だそう。その意味では、マッサージ(リンパドレナージ)も役立ちます。  

 ここで言うマッサージとは、細胞のすき間に溜まったリンパ液が自然に流れていくように促すためのもの。「ホントにこれが効くのか?」と思うくらいに“さする”程度のもので、エステなどで行うリンパマッサージとはまったくの別モノです。  

 私もがんの手術後は、「毎日行うように」と指示され、「やらなかったら浮腫になる!」と焦って必死に行っていました。ところが、近ごろのリンパ界の常識は、大きく変わってきているらしい。  

「マッサージを予防的に行ってもあまり意味がないという医学的なデータが出ています。現在では、手足に違和感やだるさを感じたときに行う補助的なもの、という位置付けです。体を観察する機会になるのでやってみるのはいいですが、がんばって行う必要はありません」(原先生)。  

 がん仲間から、不安でがんばりすぎてしまう話をよく聞きます。がんになって心細いうえに、初めて聞く治療や後遺症だらけで、いろんなことに過敏になってしまうもの。でも、ちゃんと知識を得たうえで、ちょっと気楽にかまえてもいいのだろうと思いました。  


 リンパは、未だナゾの多い臓器。最近になって、少しずつその機能や治療法が解明されてきました。  後編では、最新の治療法や、受診のタイミング、医師以外にもいる頼れるリンパのプロについてを書いていきます。お楽しみに!  

《お話をうかがった先生》

三原 誠(みはら まこと)先生 JR東京総合病院リンパ外科・再建外科特任医師 平成14年福岡大学医学部卒業。虎の門病院外科レジデント、帝京大学医学部形成外科助手、東京大学医学部形成外科・美容外科、ハーバード大学医学部移植外科リサーチフェロー、埼玉県済生会川口総合病院リンパ外科・再建外科主任医長をへて現職。年間約300件のリンパ外科手術を行い、海外でのリンパ浮腫手術経験も多数。形成外科専門医、リンパ浮腫療法士、日本リンパ浮腫学会評議員。専門はリンパ外科、複合組織移植、一般形成外科。座右の銘は「リンパ浮腫をどげんかせんといかん!」。

原 尚子(はら ひさこ)先生 JR東京総合病院リンパ外科・再建外科医長 平成19年九州大学医学部卒業。初期臨床研修をへて東京大学形成外科に入局。光嶋勲教授のもとで多くの患者のリンパ浮腫診療、乳房再建などに携わる。埼玉県済生会川口総合病院リンパ外科・再建外科をへて現職。年間約300件のリンパ外科手術を行い、海外でのリンパ浮腫手術経験も多数。リンパ浮腫に関する研究を精力的に行うと同時に、女性ならではの視点で、陰部リンパ浮腫などに悩む女性患者さんをサポートしている。形成外科専門医、日本リンパ浮腫学会評議員、日本リンパ浮腫治療学会評議員、リンパ浮腫療法士、弾性ストッキングコンダクター。  

 

木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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