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クリコ流ふわふわ介護ごはん
第2回 「ひらめき・アイディア・自由な発想」が新しい扉を開く

掲載日:2021年11月5日 9時47分

 こんにちは。クリコです。

 今回は肉料理のお話をしたいと思います。 病気で噛む力を失った夫アキオに大好きな肉料理をたくさん食べて欲しくて、「加熱しても硬くならない肉素材」を考案したことは、このコラムの第1回でふれました。

 思いがけなく妙案がひらめいたり、遠い記憶の扉が開くとき、そのきっかけは小さなことや、一瞬の出来事だったりします。 肉素材考案のきっかけも些細なことからでした。

 

きっかけは昭和レトロなあれだった

 ある日、スーパーの棚に懐かしいデザインの缶詰を見つけました。コンビーフでおなじみノザキの牛肉大和煮です。

 冷蔵庫の普及率がまだ低かった昭和30年代、常温で保存できる缶詰は多くの家庭で重宝したのではないでしょうか。

 ホワイトアスパラガス、フルーツ、コンビーフなどの缶詰は、実家の母も利用していました。たまに登場する牛肉大和煮は、甘辛い味付けが子供ながらにおいしかった覚えがあります。はるか昔の味を確かめたい好奇心と懐かしさから1缶をひょいとカゴに入れたのです。

 その日の夕食の食卓にのせると、アキオが「おいしい」と言って食べたのでした。 特に夫のためにと意識したわけでもなかったので、彼の反応に少し驚きつつ、私も一口食べてみました。

「ああ〜、これこれ!この味!!」

 数十年ぶりに口にしたその味が記憶の中の味と合致したのが嬉しく、そして何より柔らかかったことが意外でもありました。

「そっかぁ。これくらい柔らかければ、アキオもお肉が食べられるんだ〜」

 そう思った瞬間に、昔テレビで見た映像が頭に浮かんだのです。

 有名なとんかつまい泉の職人さんが、肉の塊を手が透けて見えるほど叩いて薄く伸ばし、それを元の形に戻すという映像でした。おいしいと評判のヒレかつサンド、あの柔らかさの秘密は、肉の繊維を徹底的に断ち切ることにあったのです。

「そうか! だったら、すでに繊維が断ち切られているひき肉で作る肉団子とかハンバーグの肉だねをシート状に伸ばしたら、柔らかい薄切り肉が作れるかもしれない」

 このひらめきから生まれたのが「シート肉」です。

 

シート肉の完成に「クリコ天才!」と大絶賛♪

 成功の予感しかない私はワクワク気分でシート肉作りに取り掛かりました。我が家の定番料理「ふわふわ鶏団子」は、その名の通り噛まずに食べられるくらいの柔らかさ。鍋によし煮物によしで夫にも好評でした。その鶏団子のレシピをベースに試作を始めました。

 ひき肉の粒は加熱すると硬くなって食べづらいので、材料をミキサーにかけて滑らかなペースト状に。これを薄い長方形に成形して、電子レンジで加熱すれば、薄切り肉の一丁上りっ…となるはずでしたが、そう甘くはありませんでした。

 柔らかいけど肉の味がしない、肉の味はするけど硬い…。 味と柔らかさを左右する材料のひき肉、大和芋、豆腐、卵の配合量や加熱方法と温度を変えて、自分で食べて確かめることを何度も何度も繰り返しました。

 実験さながらの試行錯誤の末に、舌で潰せる柔らかさで、しかも鶏肉の淡白な美味しさを味わえるシート肉がやっと完成したのです。

 シート肉で作った肉料理第1号は、棒状に切った鶏シート肉に自家製ゴマだれをたっぷりかけたバンバンジーです。

「アキオはどんな反応をするだろう? もし、口に合わなかっら、また一からやり直しだ」とネガティブな思いがよぎりましたが、「鶏シート肉のバンバンジー」は大好評でした。

「おいしい〜。バンバンジーだ!」「クリコすごい! クリコ天才!」と大絶賛。

 夫のこの笑顔が見たくて、「おいしい」の一言が聞きたくて、私はずっと料理をしてきたのだ。そう思うと、喜びがじんわりと胸に満ちていきました。

 

新しい扉の向こうへ

「ああ、介護食って、なんて楽しいんだろ〜♪」

 9年前当時、介護食作りに関する役立つ情報を得ることができず、食欲をそそる見た目で、しかもおいしい食事をどうやって作ればいいのか途方に暮れる毎日でした。

 その苦しかった介護食作りが一転して楽しいものに変わったのです。

「ひらめき・アイディア・自由な発想で作ればいいんだ!」

「介護食って、新ジャンルの家庭料理だったんだ!」

 そう気づいた時、料理の新しい扉を開いたような新鮮な喜びがありました。

 

進化したシート肉で変幻自在

 その後、シート肉は材料や配合を一新し、肉の味がより濃く、そしてより柔らかい食感へと生まれ変わりました。

 肉は加熱すると肉に含まれるタンパク質が結合して硬く変質します。新しいシート肉が加熱しても柔らかさを保つ理由は3つの材料にあります。

 それは、「マヨネーズ、じゃがいも、麩」です。

 マヨネーズに含まれる植物油や酢には、加熱によるタンパク質の結合を緩める働きがあります。ジャガイモのデンプンをつなぎに使うことで、肉の味を邪魔することなくしっとり柔らかな食感に仕上がります。麩もつなぎとして使いますが、パン粉の1.5倍の保水力があり、材料全体の水分をしっかり吸収するためしっとりジューシーな食感を保てるというわけです。

 シート肉は料理に合わせて、鶏ひき肉、豚ひき肉、牛ひき肉、合挽き肉で作れるのはもとより、形も薄切り、団子、ブロックと自由自在に成形できます。和洋中の柔らかい肉料理がアイディア次第で無限大に広がります。

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 今回ご紹介するレシピは豚シート肉の肉だねで作るトンカツです。ボリューム満点のトンカツで、しかも箸やスプーンですっと切れるほどの柔らかさです!

 このトンカツで作るサンドイッチも柔らかくてめちゃくちゃおいしいです。ぜひ、お試しください。

シート肉の肉だね

【材料 出来上がり約180g】

材料名 分量
1 ひき肉(豚、鶏、牛、合挽きのいずれか) 50g
2 メークイン(皮をむき、すりおろす) 40g
3 玉ねぎ(すりおろす) 20g
4 溶き卵 40g
5 生クリーム 12g
6 マヨネーズ 6g
7 2g
8 0.8g
9 麩(ミルなどで粉砕) 7g

【作り方】

  1. メークインと玉ねぎはすりおろす。麩はミルなどでパウダー状に粉砕する。
  2. 豚ひき肉で豚シート肉の肉だねを作る。メークインと麩以外の材料をフードプロセッサーで滑らかに粉砕する。
  3. 2にメークインと麩を加え撹拌し、滑らかな肉だねを作る。

ふわふわ豚シート肉のトンカツ

【材料 1人分】

材料名 分量
1 豚シート肉の肉だね 120g
2 【バッター液】
小麦粉 25g
大さじ2と1/2
マヨネーズ 大さじ1
3 細かいパン粉 適量
4 揚げ油 適量

【作り方】

  1. クッキングシートを約25cm長さに切り、豚シート肉の肉だねをのせる。厚みが1.5cm程度になるよう両端をねじって軽く止める(完全に止まらなくてもよい)。
  2. 1の表面をヘラで平らに均し、沸騰した蒸し器に入れ、約6分蒸す。
  3. 2をラップで包んでそのまま冷ます。*冷凍する場合はジッパー付き保存袋に入れ、空気を抜いて冷凍保存。自然解凍後に調理する。
  4. 3によく混ぜたバッター液、パン粉の順につける。
  5. 190度の油でさっと揚げる。*肉だねは加熱済みのため、短時間で揚げる。
クリコ 料理研究家・介護食アドバイザー 本名は保森千枝(やすもりちえ) 自身の介護経験から、加熱しても固くならない手作りの肉・魚介素材を考案。柔らかく、見た目に食欲のわく肉・魚介料理のレシピを多数開発。野菜ピュレを活用した野菜料理は、主食からデザートまでレパートリも豊富。 食べる人だけでなく作る人も一緒に楽しめる、そんな家庭の食卓作りをモットーとしている。 【Webサイト】 「やわらかい・飲み込み安い クリコ流ふわふわ希望ごはん」 https://curiko-kaigo-gohan.com/ 【主な著書】 「希望のごはん」(日経 BP社) 「噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん」(講談社)
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