こんにちは。クリコです。
夫アキオが口腔底がんの手術を受けたのは2011年の年の瀬でした。 8時間に及ぶ手術と再建術を終え、全身管だらけ(本人曰く20本くらい)で運ばれてきた夫の無言のピースサイン。手術を乗り切った「やったぜ!」のアピールに、胸が詰まりました。
小さな楽しみや喜びを集めて
人工呼吸器の装着で、気管切開しカニューレ(太い管)を挿入したため、会話も飲食もできず、コミュニケーションは筆談でした。伝えたい言葉や感情は溢れているのに、ペンを持つ手がそれに追いつかず、苛立ちから殴り書きになることもしばしば。
1ヶ月後にやっとカニューレが外され、術後はじめての食事をとることに。
具のない味噌汁を一口飲んだ夫が「おいしい」と呟いた瞬間、医療チームの先生方から「お〜〜〜っ!」という歓声が上がりました。手術の後遺症で味覚を失う可能性があったため、夫の反応に思わず沸き返ったのでした。 ホッとしたのも束の間、夫の噛む力が想像以上に損なわれていたことは、コラム第1回でお話しした通りです。
普通に食べられるようになりたい、早く仕事に復帰したいという強い気持ちが、回復への大きな原動力となりました。
ものを噛む、飲み込むのに必要な、口・首・肩周辺の筋肉を鍛える体操、舌と唇を鍛える構音訓練など、夫は朝昼晩一回40分のリハビリを毎日欠かさず行ったのです。すぐに効果が出るものでもない地味なリハビリに黙々と取り組む姿から、並々ならぬ強い意志を感じた私は一緒にリハビリをすることにしました。
リハビリ・メニューの一つに早口言葉があり、私はネットで面白い早口言葉を見つけてはメニューに取り入れました。「きゃりーぱみゅぱみゅ みぱみゅぱみゅ合わせてぱみゅぱみゅ むぱみゅぱみゅ」を完璧に言えた夫が、胸を反らせてドヤ顔をするのが毎回おかしく嬉しくもありました。辛い時にもユーモアを忘れず、小さな楽しみや喜びを集めることで、私たちは自然と前向きになれた気がします。
食べることは生きることそのもの
「クリコぉ〜、みてみて〜」と洗面所から呼ぶ声に駆けつけると、「3キロ増えたよ!!」と体重計の目盛りを指さす夫の顔が興奮気味。食事も一度にたくさんは食べることができないので、術後に7キロも減った体重を戻すのは並大抵の苦労ではありません。
「アキオ、すごい!! すごい!!」と飛び上がらんばかりに喜び合いました。
体は正直なもので、美味しく食べたものはちゃんと血肉となるのです。
「ああ、食べることって、本当に生きることなんだなあ」と、切実な思いで実感しました。
夫は、まさに薄皮を剥ぐように、ゆっくりと回復して行きました。
おもちゃの入れ歯が効果絶大!!
再建術で移植した筋肉が馴染む2年後には、入れ歯を入れることができる。
それは大きな希望でしたが、私たちは今すぐ入れ歯を作ってくれる歯科医師を探しました。「難しい、できない」と断られ続け、絶望的になりながらも探し続け、やっと歯科大学病院の高齢者歯科の医師と出会えたのです。「困難ですが、最善を尽くす」と言ってくださった先生のおかげで、入れ歯第1号、第2号が出来上がり、回復への強力な後押しとなりました。この出会いがなければ、リハビリの経過は全く違ったものになったはずです。命の恩人である先生には、感謝してもしきれない気持ちです。
「仮の仮のそのまた仮のおもちゃのような入れ歯だから、咀嚼の補助にはなるけどあまり期待しないで」といわれた入れ歯第1号が完成!! おもちゃどころか効果は絶大でした。
術後5ヶ月間、お粥を食べるのにも苦労してきた夫が、炊きたてご飯を「うまい うまい」と言いながら一気に食べ、なんとお代わりをしたのです。十分に咀嚼できなくても、柔らかくふんわりした食感と甘い香りを堪能して頰はピンク色に染まっていました。
食べたいという強い気持ちが活力に
予想以上の入れ歯効果に自信を得て、初の外食にトライしました。夫が足を止めたのは、何度か訪れたことのある銀座の有名洋食店の前。店の外のメニュー看板を貫きそうな熱視線の先に「タンシチューと海老マカロニグラタンセット」の文字。
心の中で「肉の塊なんて、海老のプリップリの弾力なんて、いくらなんでも無理でしょ!」と声を上げながらも、夫が放つ尋常じゃないエネルギーに抗えず、半ばやけっぱちに入店したのでした。
くつくつと湯気を立てるタンシチューのタンを小さく切って口に運んだ夫は、私の目をまっすぐに見て「おいしい!」と一言。確認するように「うん、おいしい」と言って、あとは黙々と平らげたのでした。秘伝のデミグラスソースが絶品で、コトコト煮込まれたタンは口の中でとろけそうな柔らかさ。海老マカロニグラタンも海老だけを残し、ほかは完食したのです。
入れ歯の威力に驚きながらも、夫の食べたいという強い気持ちが実際の力を上回ったようにも思いました。
食べたいものを食べることは、生きる希望と活力を生みます。夫の顔には、満足と自信の笑顔が浮かんでいました。
私は皿に残った海老が恨めしく、「アキオに絶対海老を食べさせる!」、そう決意したのです。
次なる挑戦はエビフライ!
すりつぶした海老に、はんぺんなどを混ぜて作る海老しんじょは、ふわふわの食感と海老の風味が身上。夫の好物でもあった海老しんじょのレシピをアレンジして、よりふわふわの海老すり身を作ってみることに。なめらかなすり身を海老の形に整え尻尾をつける。細かいパン粉をまぶして油でさっと揚げると、どこから見ても海老フライにしか見えません。ふわふわ、サクサクのなんちゃて海老フライは、スナック感覚であとを引く美味しさで、夫に大好評でした。
もちろん、この海老すり身を使って、ふわふわのエビマカロニグラタンを作り、洋食店でのリベンジを果たしました。
加熱しても硬くならない魚介素材「海老すり身」を使って、海老フライ、海老マヨ、エビチリ、海老シュウマイ、海老パン粉焼き、海老と野菜の煮物などなど…様々な海老料理を作ることができます。
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今回は海老すり身を使った「ふわふわ海老フライ」の作り方をご紹介します。ぜひ、ご家族の皆様で召し上がってください
海老すり身
【材料 出来上がり 約90g】
材料名 | 分量 | |
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1 | むき海老 | 50g |
2 | はんぺん | 25g |
3 | 酒 | 5g |
4 | マヨネーズ | 4g |
5 | 麩(ミルなどで粉砕) | 3.5g |
【作り方】
麩はミルなどでパウダー状に粉砕する。 はんぺんは2cm角に切り、熱湯で2分茹でる。キッチンペーパーに取り、水気を切り冷ます。 *茹でることで余分な塩分が抜け、適度な水分を含みすり身がなめらかに仕上がる。 海老は粗く刻み、麩以外の材料とフードプロセッサーでなめらかになるまですりつぶす。最後に麩を入れて攪拌する。
ふわふわ海老フライ
【材料 1人分】
材料名 | 分量 | |
---|---|---|
1 | 海老すり身 | 90g |
2 | 【バッター液】 | |
小麦粉 | 25g | |
水 | 大さじ2と1/2 | |
マヨネーズ | 大さじ1 | |
3 | 細かいパン粉 | 適量 |
4 | 揚げ油 | 適量 |
5 | ケチャプ | 適量 |
6 | レモン | 適量 |
【作り方】
海老すり身を絞り出し袋に入れる。 1本22gの海老形を作る。スケールに皿を乗せ、ゼロ表示にする。1を約8cm長さの棒状に数回絞り重ねる。海老の尻尾(分量外)があれば、半量を絞り出したところで尻尾を置き、はさむように残りのすり身を絞り出す。 *小さいゴムベラなどで棒状に成形してもよい。 ラップをふんわりかけ500Wの電子レンジで2本ずつ25秒加熱し、そのまま冷ます。 *冷凍する時はジッパーつき保存袋に入れ、空気を抜いて冷凍保存する。 バッター液の材料を混ぜ、3にまんべんなくつけてからパン粉をしっかりつける。190度の油でさっと揚げる。*海老すり身は加熱済みのため、短時間で揚げる。 4を皿に盛り、ケチャプとレモンを添える。