新年あけましておめでとうございます。 お正月はゆっくり過ごされましたでしょうか。
このコラムでは、私が夫アキオの介護食作りの経験から得たノウハウや注意点など、介護当時のエピソードを交えつつゆるりとお伝えして参ります。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回は噛んだり飲み込んだりという「食べる」動作についてお話ししたいと思います。
「噛む・飲み込む力」を知ることが介護食作りの第一歩
「さあ、アキオのために頑張ってクリコスペシャル介護食を作るぞー!」と威勢のよかった私ですが、何をどういう状態なら食べやすいのかわからないことに気づきました。 せっかく苦労して作ったのに、夫の口の状態に合わず食べてもらえなかったら悲惨です。それより何より、体力回復のよりどころである食事…失敗するわけにはいかないのです(キリッ)。 介護食初心者、クリコ頑張ります!!
というわけで、まずは病院で出されていた食事と似たものを作って夫の食べる様子を観察することにしました。私も同じものを食べてその柔らかさや食感を覚えるということを繰り返すうち、舌と上顎でつぶせて、1cmくらいの大きさのものが食べやすいとわかりました。主食は全粥です。三分粥(全粥の4倍の水分量で作る)を食べるのに四苦八苦していた頃に比べれば確実な回復です。
たとえ小さくても固形物を噛むことで食事の満足感を得やすくなるでしょうし、もっと噛めるようになりたいという意欲につながるかもしれません。私は「なるべく具材の形を残し、おいしそうに見えて、かつ、柔らかく飲み込みやすい食事」を目標にしました。
ひと手間もふた手間もかかる介護食作り、いつしか孤独感の中に
食材を柔らかくするには、普通よりも長く加熱します。繊維のある野菜は柔らかく茹でたあと、すりつぶしてなめらかに。これが、言うは易し行うは難しでした。 食材ごとに茹でる時間は違うし、どれくらい茹でたら、どれくらい粉砕したら夫が食べやすい状態になるのか、一つひとつ確かめねばなりません。
ある日、おうどんを作ろうと乾麺を茹でることに。表示時間は9分とありますが、いつまで経っても舌でつぶせる柔らかさになりません。途中で何度も食べては硬さを確かめ、茹で上がるのに、なんと27分も。うどんが溶けるんじゃないかとヒヤヒヤ(汗)。
じゃがいも、さつまいも、かぼちゃなどは茹でてからマッシャーでつぶすか裏ごし器で裏ごします。ほうれん草、小松菜、キャベツ、ブロッコリーなど繊維の多い野菜は、長時間茹でても舌でつぶすのは難しいので、ミキサーやフードプロセッサーなどを使ってなめらかに粉砕します。
言いそびれていましたが、私は自宅でイタリア料理と和食の料理教室を開いていました。なので、ミキサーやフードプロセッサーを持ってはいましたが、使う頻度は少なく、正直それほど使い慣れてもいませんでした。
いざ作ってみると、この野菜はフードプロセッサーの方が作りやすい、こっちの野菜はミキサー、こっちはハンディ・フードプロセッサーというように野菜と道具との相性があって、野菜ごとにそれを確かめる必要がありました。けっこうな重さの道具を洗って、拭いて、使うの繰り返しも毎日毎食のこととなると想像以上の重労働。気づけば、キッチンは道具と飛び散ったピュレでめちゃくちゃな状態に。 ひと手間もふた手間もかかる介護食作りは、段取りよく進まないことの連続なのでした。
一日中キッチンにこもって試行錯誤を繰り返す日々…。 なんで、私ひとりこんなに苦労しなければならないんだろう…(泣)。 なんで、何も助けになるものがないの…(怒)。 とてつもない孤独感の中、ストレスは日に日に大きく膨らんでいきました。
ついに大爆発「お粥事件」
退院から十日ほどが過ぎ、介護食作りの疲れがピークに達していたある日の朝、夫が茶碗を持ってキッチンにやってきました。
「このお粥、水分減らしてくれないかな」
その瞬間、溜まりに溜まったストレスが出口を見つけて、一気に噴出したのです。
「なんで、そんなわがまま言うの? お水の量くらいで何よ!
昨日はその水分量で食べられたじゃない。
私は毎日一日中ハンディープロセッサーであなたの流動食作ってて、腕が工事現場のドリルみたいになっちゃってるのよ!!(←道路工事でドドドドドとコンクリートを粉砕する画をご想像ください)」
思った以上の自分の大声にびっくり。 手術の後遺症でうまく喋ることができない夫が、口元に手をやりながら、済まなそうに言いました。
「手術の傷の腫れが引いて、口の中の形が毎日変わるみたいなんだよ。 昨日は食べられたんだけど、今日はうまく食べられないんだ…」
ええっーー口の中のカタチが変わる!? 想像もしていなかった衝撃の一言に心の中で叫んでいました。夫の口の中の状態をまるで想像できていなかった自分を猛烈に反省したのでした。
介護する側は介護される人の状態をリアルに想像すること、知ろうとすることが、とても大切ということをこの失敗から学び、忘れてはならない教訓として、心の中で「お粥事件」と呼んでいます。 この時以来、お粥=反省に変換されてしまいました。
噛む、飲み込む動作は緻密な仕組みから成り立っている
お粥事件の後、「噛めない」ということが、どういうことなのか知るために、歯を使わずにご飯を食べてみました。柔らかいと思っていたご飯は意外にも手強く、口の中が疲れてしまい、途中で諦めて歯を使ってしまいました。噛んで飲み込むということは、歯と舌だけでなく、唇、頰、顎が協調して成し得ることと知りました。 この時、手術で多くを失った夫の苦しみの一部を理解できた気がしました。
食べ物を食べることは、食べ物を見て → 口に入れて咀嚼し → 舌や頬を使って口の奥からのどへ送る →ごっくんと飲み込んで食道へ送り → 胃へ到達するまでの作業を連続的に行うことを言います。
普段、無意識に行っている食べる動作が、こんなに緻密な仕組みから成り立っているなんて驚きです。 食べる人の体調の変化で口の中の状態も日々変わりますし、一連の動作が正常に働かないこともあることを理解しなければならないんですよね。
主食のお粥もバリエーション豊かにアレンジ♪
調子の悪い時の柔らかいお粥はとってもおいしく感じるのですが、毎日毎食となるとやっぱり味気ないですよね。 お粥が主食の夫が少しでも飽きずに食べられるよう、自家製肉みそ、鯛みそ、海苔の佃煮、粒うに、いくら、たらこ、クリームチーズなど、いろいろな「お粥の友」を添えました。 お粥に市販の粉末スープを混ぜた即席リゾットも好評で、特にオマール海老の粉末スープで作ったリゾットは濃厚で超リッチ。そのほか、かぼちゃ、ブロッコリー、きのこのピュレを混ぜた野菜リゾットも喜んでくれました。
そして、新たにチャレンジしたのがお粥で作る手毬ずしです。水分の多いお粥を手鞠のように丸めるにはどうしたらいいのか。思いついたのが「葛粉」でした。葛粉を使ってまとめた手毬ずしは、柔らかい米粒がもっちりとしていながらも、ほろほろと解け、とってもおいしく作ることができました。
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今回は「お粥で手毬ずし」の作り方をご紹介します。お正月、お花見、お誕生日などの晴れの日にぜひお試しください。
お粥で手毬ずし
【材料 出来上がり 8個分】
材料名 | 分量 | |
---|---|---|
1 | ご飯 | 100g |
2 | 水 | 200cc |
3 | 昆布 | 2cm×3cm |
4 | 【すし酢】 | |
酢 | 10cc | |
砂糖 | 7g | |
塩 | 1g | |
5 | 本葛粉 | 4g |
6 | 刺身 *とろサーモン、マグロ赤身、ホタテ、甘エビ | 各6g |
7 | いくら | 6g |
8 | アボカド | 6g |
9 | レモン汁 | 適量 |
10 | 【炒り卵】 | |
溶き卵 | 適量 | |
マヨネーズ | 適量 | |
11 | 【しいたけの甘煮】 | |
しいたけ | 1枚 | |
砂糖、酒、みりん、醤油 | 各小さじ1 | |
水 | 大さじ1 | 12 | トッピング *ラディッシュ、おろしわさび、おろし生姜など | 適宜 | 13 | スダチのスライス | 適宜 |
【作り方】
すし飯を作る。ご飯を茹でこぼし、さっと水洗いして鍋に戻す。水と昆布を加え弱火にかけ、舌で潰せる柔らかさになるまで20分を目安に煮る。途中、水が足りなければ適宜足す。 15分経ったら、昆布を取り出す。 水分がほとんどなくなり、ご飯が柔らかくなったら、すし酢の材料と少量の水で溶いた葛粉を加え、ヘラで鍋底をかき混ぜながら加熱する。鍋底の筋が5秒ほどで消えるくらいになったら鍋ごと水につけて冷ます。 3を8等分してラップで茶巾絞りに包み、水につけて冷やす。 具を準備する。刺身は包丁で細かく叩く。 アボカドは薄くスライスし、レモン汁をかけて色止めする。 炒り卵を作る。卵の1/6量のマヨネーズを混ぜ、中火で熱したフライパンに入れ蓋をして火を止める。半熟状になったらヘラでかき混ぜる。 しいたけの甘煮を作る。しいたけは細かいみじん切りにし小鍋に入れ、調味料と水を加え汁気がなくなるまで煮る。 盛り付ける。すし飯の上に具をふんわり乗せ、トッピングをあしらう。すし飯が皿につかないようにするためにスライスしたスダチの上に手毬ずしを並べる。 *すし飯にスダチの香りが移り、よりおいしくいただける。