こんにちは。クリコです。
ここ数年、「誤嚥」という言葉をよく耳にするようになりました。高齢者の肺炎の約8割は、誤嚥によるものと言われています。
誤嚥性肺炎は、飲食物や唾液と一緒に細菌が誤って気管に入ってしまい、それがもとで肺炎を引き起こす病気です。重篤な状態に陥ることもあります。
私が誤嚥について知ったのは、今から9年前のことです。 「きのこがツルツルして、口の中で遊んで飲み込めないよ~」と言った夫アキオの言葉がきっかけでした。 介護食作りの知識が何もなかった頃、里芋やきのこなど表面がツルツルする食べ物は、噛む力が弱くなった夫には、むしろ食べやすいのかと思っていました。でも、それは大きな間違いでした。
今回は誤嚥についてお話します。
なんで誤嚥しちゃうの?
食べ物や飲み物が、間違って気管に入ってしまうのが「誤嚥」です。
私たちは普段意識せずに空気を吸って、食べ物などを飲み込んでいます。でも、実はこれってすごいことみたいです。
口から入った食べ物と空気は同じ道を通って、途中から食道と気管の二手に分かれます。食べ物は食道を通って胃に、空気は気管を通って肺に行きます。 飲食をしていない時は、呼吸のために気管が使われます。食べ物が入ってくると、喉頭蓋という気管の入り口の蓋みたいな部分がパタッと閉じます。これで、食道から胃までの一本道ができました。線路のポイント(分岐)が、切り替わるみたいな感じですかね。
驚くのは通過スピードです。食べ物の塊をゴックンと飲み込んで、食道に送り込むまでの時間は、なんと0.5秒~1秒! 気管の蓋が閉じるタイミングがちょっとでも遅れたら、食べ物や飲み物がピュ~ンと気管に入ってしまいます。 絶妙なタイミングで空気と食べ物の通り道を切り替える反射運動…なんだか神がかっていると思いませんか?
ちなみに、哺乳類で誤嚥するのは人間だけなんだそうです。動物の喉は、飲み込む道と呼吸の道が立体的に交差しています。完全に分かれているので、食べたものが気管に入ることがないというわけですね。
だけど、高齢者に誤嚥性肺炎が多いのはなぜなんでしょうね?
むせは防護反応だった
食べ物を口の中でモグモグ噛んで、飲み込みやすい大きさにしてからゴックンと飲み込んで、食道、胃へ送り込む一連の動作を「嚥下(えんげ)」と言います。
加齢や病気など様々な原因で、嚥下の反射機能が低下すると、気管の蓋が閉じるタイミングが遅れてしまいます。すると、食べ物が気管に入り込んでしまいます。
私たちは、時々むせたりすることがありますよね。これは咳き込むことで、気管に侵入した異物を外に吐き出そうとする防御反応です。 加齢に伴う口周りの筋力低下や病気による麻痺などで、むせること自体が十分にできない場合があります。高齢者に誤嚥が多いのは、こうした嚥下反射機能の低下が原因なんですね。 加齢による免疫力の低下で、誤嚥性肺炎になるリスクも高まるわけです。
細かく刻んだ食べ物はキケン!
誤嚥の有効な予防方法は、嚥下機能のトレーニングや口腔体操、口腔ケア、食べる時の姿勢、嚥下機能に応じた適切な食事作りなどがあります。
食べ物を噛む力・飲み込む力が弱くなった人が、安全にかつ食べやすいように調理した食事を介護食や嚥下食と言います。
食べやすい=噛みやすい、飲み込みやすいということです。 噛みやすくするには、噛む回数が少なくて済むように調理します。具体的には、食材を柔らかく加熱する。大きさを小さく切る。すりつぶして滑らかな状態にするなどです。 飲み込みやすくするには、小さく刻んだ食材にとろみをつけてまとめます。
介護食の食形態の一つに「きざみ食」があります。細かく刻んだものは、噛む回数が少なくて済みますがデメリットもあります。刻んだ食材が、口の中でばらけてうまく飲み込めなかったり、パラパラと喉の奥に落ちて気管に入ったりする危険があります。 最近では、細かく刻んで更にとろみをつけて、食材をまとめる調理が定着しつつあるようです。
誤嚥を防ぐ食事作りの大切なポイントは、口から入った食べ物が喉から食道にかけてゆっくりと移動することです。食べ物だけでなくサラサラした水などもとろみをつければ、移動速度が落ちて、食道の一本道を安全に通過できるというわけです。
夫の一言から生まれた万能ピュレ
私が夫の介護をしていた9年前当時、誤嚥については一般にあまり知られていなかったと思います。介護食作りのヒントをインターネットで探していた時、口腔外科病院のサイトに「誤嚥」という言葉を見つけました。私が作る料理が夫の命を危険にさらすかもしれないと知った時は、本当に怖かったです。 この大切な情報をたくさんの方に知らせなければという思いが、私の活動の原動力になりました。
誤嚥について知ってからは、調理方法や食材の選び方などに細心の注意を払うようになりました。 夫にとっては危険なきのこですが、食物繊維も豊富で旨みや風味がいっぱいの魅力的な食材です。夫が食べられるように、ピュレにすることを思いつきました。 甘みとコクを補うための玉ねぎと数種類のきのこをよ~く炒めてからフードプロセッサーでなめらかにすりつぶしたものが「ミックスきのこのピュレ」です。
このピュレを他の食材と組み合わせれば、たちまち美味しいきのこ料理の出来上がりです。 例えば、お粥にコンソメときのこピュレを混ぜればリゾットに。ホワイトソースに混ぜてきのこクリームソースに。卵に混ぜて蒸すだけできのこの洋風茶碗蒸し。オムレツやスクランブルエッグにちょっと混ぜればワンランクアップ! とこんな具合に。 万能選手のきのこピュレは、美味しく安全な食事作りの強い味方です。
このコラムでは、誤嚥を予防するためのポイントも踏まえながら、食事作りの工夫をレシピと共にご紹介します。
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今回ご紹介する料理は、「メレンゲオムレツのきのこクリームソース」です。 卵液の材料のマヨネーズが加熱によるタンパク質の結合をゆるくし、ヨーグルトがしっとりとした食感に仕上げてくれます。さらに、しっかり泡立てたメレンゲを加えてふんわり食感に。 きのこの旨みがギュッと詰まったクリームソースをたっぷりかけて、召し上がってください。
ミックスきのこのピュレ
【材料 作りやすい分量】
材料名 | 分量 | |
---|---|---|
1 | しめじ | 200g |
2 | マッシュルーム | 100cc |
3 | しいたけ | 100g |
4 | 玉ねぎ | 200cc |
5 | オリーブ油 | 大さじ1と1/2 |
6 | 塩 | 小さじ1/3 |
【作り方】
玉ねぎはタテ半分に切り、繊維に直角にスライスする。しいたけとマッシュルームはスライスし、しめじは石づきを切り落として小房に分ける。 フライパンにオリーブ油を熱し、玉ねぎを強火で炒める。玉ねぎがしんなりしたら、きのこ類と塩を加え、中火で全体がしっとりするまで炒める。 2が冷めたら、フードプロセッサーでなめらかになるまで粉砕する。 *ここでは、ハンディタイプを使用。 多めに作り、30~50gずつ小分け冷凍しておくと便利。
メレンゲオムレツのきのこクリームソース
【材料 1人分】
材料名 | 分量 | |
---|---|---|
1 | 卵白 | 1個分 |
2 | 【卵液】 | |
卵黄 | 1個分 | |
マヨネーズ | 6g | |
生クリーム | 6g | |
ヨーグルト | 6g | |
胡椒 | 少々 | |
3 | サラダ油 | 小さじ2 |
4 | 【きのこクリームソース】 | |
ミックスきのこのピュレ | 40g | |
ホワイトソース(市販品) | 15g | |
牛乳 | 15cc | |
生クリーム | 15cc | |
塩・胡椒 | 適量 |
【作り方】
フライパンにソースの材料をすべて入れ、中火にかける。かき混ぜながら、適度な濃度がついたら、塩・胡椒で調味する。 *濃度は牛乳で微調整する。 卵白をしっかり泡立ててメレンゲを作る。卵液の材料をよく混ぜ、メレンゲを2~3回に分けてヘラで切るようにさっくりと混ぜる。 フライパンを中火にかけサラダ油を熱する。2を一気に流し入れ、卵液に油を取り込むようにヘラを大きく動かして混ぜる。半熟状態で半分に折る、または木の葉形に整える。 皿に盛り付け、1のソースをたっぷりとかける。