新着情報

佐々木常雄の「灯をかかげながら」
第20回 「胃がん」と「おこげ」

掲載日:2022年9月1日 10時54分

コロナ感染が心配で、検診に行かず

 Bさん66歳、男性です。会社を辞めて3年になります。辞めてからは一般健診も、がん検診も行っていません。コロナ感染を心配していると言いますが、行くのがおっくうだったのが一番の原因かもしれません。

 もちろん、コロナに感染したくないし、駅の雑踏や電車の中に、コロナの感染者がいるかもしれないと思うと、人が集まるところには行きたくありませんでした

 毎日、スマホは身から離さず、ネットとテレビを見ている生活が続いています。

 年金だけの生活よりも、何か少し働いて収入があった方が、この先の心配が減るし、家でダラダラしているよりは、その方が身体的にも、精神的にも良いと分かっているのですが、ハローワークに行こうかなと思いながらも、コロナのことを考えると、なかなか腰が上がりません。退職の時に会社が勧めてくれた非常勤の仕事を断ってしまったのも後悔しています。

 2か月前から空腹時に臍の上がキリキリすることがありました。胃薬を飲んでも効いた感じはないのですが、なんともないこともあります。

胃がんになった原因は「おこげ」と確信

 ある日、朝から食欲がなく、いつもよりムカムカした感じがありました。昨日、暑かったので、冷蔵庫のアイスキャンディを2個食べたのが悪かったのか、昨夜の焼いたサンマが悪かったか。とにかく仕方がないので、近くの胃腸科に行ってみようと予約の電話をしてみたら、「明日、食事をしないで来て下さい。すぐ内視鏡検査が出来るかもしれません」と言われて、早速受診して検査を受けることにしました。

 その結果、なんと、なんと内視鏡診断では「胃がん」と言われました。

 「そんなに進んでいないので、もしかして、病院に行けば、胃を切らずに、内視鏡でがんの所を切除できるかもしれません。紹介状を書きますから、予約して、早く行った方が良いでしょう。」とA病院を紹介されました。

 Bさんは、受診まで、数日待っている間に、スマホのネットで、胃がんのことをいろいろ調べてみました。

 すると、「胃がん」、「おこげ」がヒットしました。

 そうか、自分はご飯のおこげが好きだった。小さい頃は、お釜で焚いたご飯を食べた。茶碗についたおこげのご飯が思い出される。おばあちゃんは、昼ごはんに、よく焼きおにぎりを作ってくれた。ある時は、醤油を、ある時は味噌をまぶして焼いたおにぎりだった。中身はいつも梅干しだったけれど、美味しかった。そういえば、むかし、七輪でイワシ、サンマ、ニシンを焼いてたくさん食べた。

 がんは生活習慣病と言われる。自分は、おこげ好きだったし、たくさん食べた。Bさんは、胃がんになったのはおこげが原因だったのだろうと確信したのでした。

「おこげは無関係」と担当医

 Bさんは、幸い、紹介されたA病院には3日間の入院で、胃を切らずに内視鏡でがんの部分を切除できました。

 入院中、担当医に おこげで胃がんになったと思うと話してみました。

 担当医は笑顔で答えてくれました。

 「普段、私たちが食べるおこげの量では、がんは起こらないと思います。以前、国立がんセンターの杉村隆先生が、おこげでラットの胃に人工的に胃がんを造った研究があり、おこげには発がん物質があることを証明されましたが、それは、人が食べる量よりも何千倍も多い量でした。

 あなたの胃がんは、きっと、おこげは関係ないように思います。それよりもあなたの胃にはピロリ菌がいるようです。いずれ除菌を勧めます。ピロリ菌のいない胃にはがんが少ないのです」

 Bさんは、ネットでピロリ菌がヒットしなかったのは、調べ方が悪かったのかと思いながら、自分の性格を調べたら、「思い込みが激しい人」と出たのには苦笑してしまいました。

シリーズ「灯をかかげながら」 ~都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員 佐々木常雄~

がん医療に携わって50年、佐々木常雄・都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員の長年の臨床経験をもとにしたエッセイを随時掲載していきます。なお、個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。


ぜひメールマガジンにご登録ください。
ぜひメールマガジンに
ご登録ください。
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい