こんにちは。クリコです。
口の中や舌、のど、耳下腺などの頭頸部がんの術後は、嚥下機能が低下しているため、健常時とは食事の内容を変える必要があります。消化器官のがんの術後にも、消化機能の低下により同様のことが言えます。 今回は術後の食事はどのような点に注意が必要なのか、クリコ流の食事作りがどう活かせるのかについてお話しします。
●消化ってなに?
食道、胃、大腸などの消化器管は、食べ物を消化・吸収して排出する役目を担っていますが 、そもそも消化とはなんでしょうか。知っているようで意外と知らない「消化のしくみ」について、図を見ながら確認していきましょう。
口: 食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせて粘土状にする 食道:胃へ運ぶ 胃: 粥状に消化して貯め置き、少しずつ腸へ送る 小腸:さらに消化し、栄養を吸収する 大腸:水分やミネラルを吸収し、繊維質などの残りカスをゆっくり固めて便になり排出する 消化とは、口から入った食べたものの栄養素が小腸などで吸収しやすいように固形→粘土状→粥状と形が変化し、便となって排出されるまでの過程を指します。 それぞれの消化器管では、消化したものを一時的に貯めておきます。これを「滞留時間」といいます。白米の滞留時間は胃で2〜3時間、小腸で5〜8時間、大腸で15〜20時間と言われています。 こんなに長時間働き続けていることにあらためて驚かされます。●消化の良し悪しと滞留時間の関係
「消化にいい」とは消化にかかる時間が短いこと。消化が速いと胃の滞留時間も短くなり、負担が少ないということです。逆に、「消化に悪い」とは消化に時間がかかり、腹持ちがいいとも言えますが、滞留時間が長く胃の負担が大きくなります。 術後の食事はどんなことに気をつけたらいいのか病気別にみていきましょう。 1)胃の術後の食事 胃の手術後しばらくは胃の機能が低下しているため、胃に負担がかからないよう以下の点に注意します。 ①食べ物を小さく刻む、すりつぶす、柔らかく加熱する、よく噛む ②消化に悪い食品を控える ・体内で消化されない「食物繊維の多い食品」 ・胃の運動を抑える「脂質の多い食品」 ・細かく噛み砕けない「硬い食品」 ・ラーメンや餅など消化時間が長い「炭水化物」 ③食事の量は無理をしないで少なめにし、食事の回数を多くする 食物繊維自体は体内で消化・吸収されずに腸まで届きます。不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類があり、ごぼう、レンコン、タケノコなどの不溶性食物繊維は、胃の滞留時間が長く負担がかかるため摂取を控えます。バナナやリンゴ、桃のペクチンなどの水溶性食物繊維は水に溶けやすく、胃への負担が少ない食品です。 食道の手術で胃を食道の代わりにする場合は、胃の機能が低下するため、胃の術後の食事と同様にします。 2)大腸の術後の食事 胃と同様、食べ物を小さく刻んだり、柔らかく加熱し、よく噛んで食べ、消化にいい食事を心がけます。 不溶性食物繊維は水に溶けず水分を吸収して膨らみ、腸を刺激してしまいます。腸閉塞の原因にもなるため、医師の許可が出るまでは控えます。水溶性食物繊維は便を柔らかくする作用があるので適量をとるようにします。 3)頭頸部の術後の食事 頭頸部の術後は、食べる機能そのものが低下します。誤嚥や窒息などのリスクも高まるため、食品の形状と調理方法に特に注意が必要です。 食べる人の噛む・飲み込む力を測る嚥下機能検査によって、適正な食事形態をとるようにしましょう。食事形態の目安は、下図をご参考になさってください。表の見方は、第6回「知らないと怖い! 誤嚥しやすい食べ物とは」(https://www.gsclub.jp/tips/18056)に詳しい解説があります。
●クリコ流ふわふわ介護ごはんで解決
頭頸部と消化器管の術後の食事に共通する点は、食べ物を小さく刻む、すりつぶす、柔らかく加熱するなどです。 すでに本コラムでご紹介した「野菜ピュレ」は、柔らかく茹でた野菜をなめらかにすりつぶしたものです。野菜ピュレに他の食材を組み合わせ、主食からデザートまで様々な野菜料理を作ることができます。噛む力が弱い方だけでなく、消化器管の術後の方の体の負担を抑えながら野菜の栄養を十分にとることが可能です。
第2回「ひらめき・アイディア・自由な発想が新しい扉を開く」のレシピコーナー(https://www.gsclub.jp/tips/17466)では、柔らかく噛みやすい肉料理を作るために考案した手作り素材「加熱しても硬くならない肉素材・シート肉」をご紹介しました。
「シート肉」は脂質を抑えることもできます。豚ひき肉100g中の脂質が15gに対し、豚シート肉100g中の脂質は11gで、牛ひき肉と牛シート肉の脂質量も同様です。
以前、食道がんの手術を受けた方が「ふわふわ豚シート肉のトンカツ」(第2回ご参照)の作り方を知りたいと料理講習会にご参加くださいました。油っこいものを食べると気持ち悪くなってしまうが、シート肉のトンカツはまったく胃にもたれないと喜んでくださいました。細かいパン粉を使うことで揚げ油の吸収を抑えたことも胃の負担を軽減できたようです。
頭頸部だけでなく消化器管の術後の食事についても、「クリコ流ふわふわ介護ごはん」のレシピをお役立ていただければ幸いです。このコラムでは毎回、味も見た目も楽しめ、柔らかい食事の作り方をご紹介しております。ぜひ、ご活用ください。
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今回ご紹介するレシピは、牛シート肉で作った薄切り肉をさっとソテーした牛のネギ塩です。シート肉の肉だねを薄切り肉に成形する方法にご注目ください。
しっとりやわらか牛の特製ネギ塩だれ
【材料 1人分】
材料名 | 分量 | 1 | 牛シート肉の肉だね | 約100g*作り方は第2回「シート肉の肉だね」参照 |
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2 | サラダ油 | 大さじ1 | 3 | 無塩バター | 5g |
4 | 【ネギ塩だれ(作り易い分量)】 | |
ネギ | 70g | |
にんにく | 6g | |
ごま油 | 20cc | |
水 | 15cc | |
黒胡椒 | 2.5g | |
塩 | 5g | |
レモン | 適量 |
【作り方】
ネギ塩の材料をフードプロセッサーにかけ、なめらかなペースト状にする。 牛シート肉の肉だねを3等分する。ラップの上に置き、ヘラを使って手のひら大に薄く伸ばし包む。残りの肉だねも同様に作り3枚重ねて蒸し器で4分加熱する。取り出して、そのまま冷ます。 フライパンにサラダ油を熱し、2の両面さっとソテーしバターで風味づけをする。 3を半分に切り皿に盛り、ネギ塩だれとレモンのくし切りを添える。