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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第16回 ダイバーシティ&インクルージョン② ~女性活躍の裏側で~

掲載日:2023年8月9日 11時00分

 男女雇用機会均等法が制定されてから38年経ちました。もっとも、業種等にもよるものの、企業で本格的に女性の採用・登用が進んだのは、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の取組みの端緒として女性活躍推進が課題視されたこの10年余りのことかもしれません。

 その裏側で、近年は女性の健康問題も注目されるようになっています。


企業のリスクと意識のギャップ

 国立がん研究センター「がん情報サービス」のがん統計(※)によれば、がん患者の約3割は就労世代(15~65歳)で発症しています。しかも、30代から40代では、男性より女性の方ががんになる割合は上回っています。乳がんや子宮頸がんといったがんが比較的若い世代でも発症しやすいこともあるでしょう。

 このことは企業にとっても大きな意味を持っています。

 私の勤務先では、14年前から女性の採用を以前より積極的に行うようになりました。当時入社した女性たちは今、30代半ばを迎えています。社員ががんになるリスクも少しずつ高まっていると言えるかもしれません。こうした企業は他にもあるのではないでしょうか。

 一方で特に若い世代となると、がんはとかく他人事と見られがちです。検診の受診を企業側から呼び掛けても、上の世代に比べると受診率が低かったりもします。「まさか自分がなるなんて…」。そう思うからこそ、実際にがんと診断された時、衝撃を受ける人も少なくないでしょう。



当事者の声で伝えていきながら

 私の勤務先には、「Can Stars(キャンスターズ)」というがん経験者の社内コミュニティがあります。体験の共有といったピアサポートが活動の中心ですが、意識啓発を目的とした一般社員への発信も行ったりしています。

 その一つとして年数回、「Can Starsカフェ」と題し、昼休みに一般社員が気軽に参加できるオンライン発信を行っており、去る6月のカフェでは「女性のがん」をテーマに取り上げました。30代で子宮頸がんになった女性メンバーが「検診の重要性を社内の仲間に伝えたい」と強い思いで体験談を語り、他のサバイバーや保健師との座談会との構成です。

 これまで参加が少なかった20代、30代の女性層にも積極的に声をかけ、総勢100名弱の社員が参加してくれました。

「リアルな体験等を聞けたことで、どこか他人事のようであったことが、より身近なこととして捉えられた」。「体験談を通し、聴講しているメンバーに検診の大切さが伝わった」。「日頃は忘れがちな自身の健康を気遣うことを促す良い機会になった」。参加者からはこうした感想が挙がりました。

 検診の受診促進や両立支援は、国として、医療機関としてやるべきことがある一方、企業として、当事者として、身近なところからできることもあるはずです。今回、「女性のがん」について当事者の声で働きかけたことにも大きな意味があったと感じています。



 昨今、D&Iは「DEI」という新しい形で語られ始めています。「E」とは「Equity(公平性)」のこと。挑戦する一人ひとりに対する機会提供の公平性を確保することです。

 性別は属性の一つの切り口に過ぎませんが、女性の健康を確保し、その機会を確実に提供することは、DEIの上でも一つの重要な要素のように思えてなりません。



※国立がん研究センター「がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック」より
 https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/guidebook_l.pdf
 https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/guidebook_sm.pdf


村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。



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