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第78回 乳がんかも!? 検査がいろいろと予想外だった/木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2024年6月7日 14時22分

 少し前の話ですが、乳がんの「要再検査」が出ました。久しぶりにモヤっとした小さな不安を感じました。多分大丈夫だろうと思いつつも、黒い煙がフッと心のなかに立ち込めたような感覚でした。

 がんって、初めてのことだらけです。治療はもちろん検査も患者にとってはすべてが「初」の連続です。

 子宮頸がんになって数年が経った今でも、時として「初」は現れる。がん治療による後遺症のケアのために女性ホルモンの補充を継続的にすることになったのだけど、主治医の話では「もしも乳がんがある場合、悪化する可能性がある」そう。そのためホルモン補充を始める前に乳がんの検診をしてみることになったのでした。

 自治体のがん検診で、乳がん検査のひとつであるマンモグラフィはちょくちょく受けていたし、慣れたものだと思っていました。ところが今回は何かちょっと違う。

 検査画像をジッと確認していた検査技師さんが「もう少し細かく撮りますね」と、別の機材を持ち出して片胸だけ再度撮ることに。

「これだとピンポイントで撮れるんです」と言うのだけど、それってそこに何かあるってことだよね、と思わずにはいられない。

 案の定「何かあるから再検査」となり、MRI検査をすることになりました。子宮頸がんでMRIを受けたことはあるものの、乳がんではどんなふうに撮るのだろう……?

※子宮頸がんのMRI検査のお話は『第47回 MRIって、むずかしい!? いろんな検査をやってみた《第一弾》〜続・面白い体験シリーズ〜/木口マリの「がんのココロ」https://www.gsclub.jp/tips/14230にて

●造影剤注入!4度目の正直


 検査室に入ると、まずは造影剤を注入するために若い女性医師が登場。この病院では、造影剤は研修医くらいの若手が担当するらしい。いつものことと思いつつ、今回の若手さんは少々緊張しているようだったので、私の右腕にある極上の血管を差し出すことにしました(緊急用のため普段はあまり使わないようにしている)。

 ところが針はなかなか血管に入らない。シロウト目にも間違いなく血管を貫通しているのだけど「う〜ん、入らないな」と針を泳がす若手さん。それならばと抗がん剤治療で使っていた手首の太い血管を提案してみるも、入らず。さらに手の甲の血管を差し出してみるも、これまた入らず。

 ようやく入った!と思ったのか、確認のための生理食塩水を注入しようとしたものの、力いっぱい押しても注射器はびくともせず(それ、絶対に血管じゃないと思います)。

 しかし、がんばりすぎないのがこの病院のいいところ。「別の医師に変わりますね」とすぐさま先輩っぽい人に交代してくれました。そして結局、最初に差し出した血管に入れたという(笑)。

 病気になる前は注射や採血は大嫌いだったのだけど、慣れというのはスゴいものです。今となっては、いくら射されても何てことはない。

 

4度目の正直


●検査は、美しい空を眺めながら……?


 何はともあれ、ようやくMRIにご対面。やはり高価でビッグな医療機器はカッコイイ。これを数十分間独り占めできるなんて、気分も高揚するというもの。がんの検査とはいえ、いつもちょっとだけ楽しい気分になります。

 MRIは数年ぶりのためか、以前とは別の機械のような気がする。そして天井には、晴れやかな空の風景が描かれていました。

「これはステキですね。検査中に眺めるのが楽しみです」(キグチ)
「そうなんです。患者さんの癒しになればと思いまして」(検査技師さん)

 ニッコリと笑う検査技師さん。そんな病院の心遣いにすでにホッコリ気分のワタシ。今回の検査は20〜30分くらいかかるのだけど、その間、この眺めは私をどんな空想世界につれて行ってくれるのか。しっかり体感しておかなければ。

 しかしながら「じゃあ、うつぶせに寝てください」と検査技師さん。……それじゃあ天井が見えないじゃないかっ!

 今の和やかな会話と笑顔は何だったのかと思いつつ、うつぶせに寝転びました。そしてそれから20〜30分の間、顔用に開けられた穴に頭を突っ込んだまま床を見続けることになったという。

 美しい空と「ただの床」のギャップが甚だしい。床にも何か絵を描いてくれないものだろうか。

 

見えるのは、ただの床


●MRIは音楽だ!


 MRI検査は「騒音がすごい」というウワサだけれど、子宮頸がんの検査のときにはたいしてうるさく感じませんでした。きっと数年の間の医療機器の発達で、さらにノイズは軽減されているのではと期待していましたが、ここにきてウワサどおりの騒音を体験するとは。

 トンタカトンタカドンドンドンドン!
 ドンドンタカタカ、ピョ〜!ピョ〜!

 ドラムのような重低音や笛のような甲高いサウンドが右に左に流れていく。こんな音をずっと聞いているのかと思うと、あまりいい心地ではないような。しかしどうすることもできないし、心を無にして音に身を任せることにしました。

 ……ん? ドラムや笛のようなサウンド? よくよく聞くと、MRIが一定のリズムを刻んでいるようでもある。

「そういえば、テクノっぽいかも??」

 一度思いついてしまうと、そうとしか聞こえないのが人間の耳。以降の検査時間中、テクノサウンドのリズムを楽しむことができたという。

 MRI=テクノ。探すと音のなかにリズムのパターンを見つけることができるかもしれません。一度お試しください。

●寂しくも楽しい「さいごのひとり」


 数日後はさらに超音波検査と専門医の診察があったのだけど、さまざまな理由で予約をねじこんでくれたためかなかなか呼ばれず。待てど暮らせど順番は回ってこない。その間に「念の為の暇つぶし」として持ってきていた一仕事を終えることができたほど。

 昼すぎが夕方になり、ギュウギュウだった乳腺科の待合室から人の姿がひとり、ふたりと消えていきました。

 そのうちいくつかの診察室からは医療者の気配もなくなり、次第に各部屋の照明が消されていって……。

「うーん、忘れられてないよな」と微妙に心配になってきたところで呼ばれました。しかし検査と診察を終えて出てきたら、もう誰一人いない。

 シン……と静まり返っているし、心なしか照明も薄暗い。今までいた診察室の明かりと、お医者さんと看護師さんの楽しそうな話し声だけがドア越しにうっすらともれていて、ちょっとだけ取り残されたような感覚。

 入院中、夜中に外来までお散歩に来たことはあったけれど、そのときとには感じなかった寂しさがある気がしました。

「ともかく帰ろう」としたところで看護師さんがやってきました。「一緒に行きますね」とのこと。どうやらすでに外来の鍵が閉まっているらしく、一緒じゃないと出られないのだとか。

 大学病院の外来で、本当に最後の一人になってしまった! これはこれで、なかなかない経験で面白かったです。

 ちなみに検査結果は「とりあえず乳がんではなさそうだ」ということでした。女性ホルモンの補充を続ける間は定期的に乳がんの検査をしていきます。もしがんが見つかってもかなり早く対処ができそうです。

当時は自転車通院!


 

木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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