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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第21回 日々のとらえ方③~計画と偶然

掲載日:2024年9月11日 10時00分

 年間計画に中期計画。ライフプランにキャリアプラン。企業組織も人間も、日々を過ごしていく上では様々な計画が付いて回ります。

 計画は重要な一方で、不測の出来事が起こるのも世の常。「備えあれば憂いなし」とは言いますが、すべてを予期することはできません。

 今回は計画と偶然について考えてみたいと思います。



運命の一日

 私の勤務先では、例年3月と9月にまとまった人事異動が行われます。3月は株主総会に合わせて役員の異動と共に、9月は最需要期を終え、翌年の商戦に向けて体制を整える意味合いがあり、他のビール会社もほぼ同様です。

 最近は人財公募制度など、自ら主体的に手を挙げての異動も増えていますが、異動の内示日は希望が叶うかどうか、組織で働く人の緊張の一日でもあります。

 その人にとって予想外の異動だったりすると、描いたキャリアプランが崩れるような気もするでしょう。しかし、そこから徐々に自分なりの意味を見出し、時間の中でキャリアを切り拓いていく場合もあります。いわば偶然の人事異動が、新たな可能性をつくり出すのです。

 翻って、がんと診断された場合はどうでしょうか。まさに青天の霹靂であり、診断を受けた日は運命の一日。「なぜ自分が…」と衝撃を受け、その場で呆然となることが多いのではないでしょうか。これまで描いてきた様々な計画が大幅な変更を余儀なくされたり、周囲の景色さえ今までと違ったものに見えたりもします。すぐには立ち直れず、再び歩き出すには、少なくとも時間が必要です。



偶然とのつき合い方

 キャリア論の学者であるジョン・D・クランボルツは、「個人のキャリアの8割は偶発的な出来事によって決定される」と主張しています。そして、予期しなかった偶然の出来事を機会に変えるには、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心の5つの行動特性が重要と位置付けています。

 とはいえ、職業人生や人生そのものにおいて、打ちひしがれた時に「好奇心」や「楽観性」と言われても、何の薬にもならないかもしれません。けれども雲が流れ、やがて季節が移り行けば、少しずつ気持ちも和らいでいくこともあるでしょう。そんな時に、考え方を変えてみる「柔軟性」や、先行きが見えなくても何かの行動を起こしてみる「冒険心」があれば、見えてくる風景も少しずつ変わってくるのではないでしょうか。

 実際に私もがんの再発手術から13年が経過する中、素晴らしいサバイバー仲間たちや医療者・支援者の方々と偶然に出会い、心強さを感じながら今日までたどり着くことができました。

 職業人生や人生自体が計画通りにうまくいかなかったとしても、「持続性」をもって一歩ずつ進んでいった時にふと顔を上げれば、偶然が与えてくれた深い青空も見えてくるような気がします。





村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。



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