こんにちは。クリコです。
ことわざ「秋茄子は嫁に食わすな」の解釈はいくつかありますが、あまりの美味しさに憎い嫁に食べさせるのはもったいないという姑の嫁いびりが一般的でしょうか。 夏の茄子はみずみずしく、秋はタネが少なく実がしまって、これもまた格別な美味しさがあります。
今回は茄子にまつわるお話です。
親はなくとも子は育つ
古典落語の演目のひとつに「茄子娘」があります。なんとも可愛らしくて大好きな噺です。 ある小さな山寺に齢46となる独り身の和尚がおりました。お勤めの合間に本堂の脇で畑仕事に精を出す毎日。野菜の中でも特に茄子が大好物の和尚は、「早く立派に育っておくれ。その折には、きっとわしの菜(サイ)にいたす」と語りかけながら丹精込めて育てていました。 村祭りの夜、和尚が寝ていると人の気配に目がさめます。蚊帳の外に目を凝らすと、歳の頃は18くらいの娘がおりました。生成りの単衣に濃紺のぼかし染め、繻子の帯を胸高に締めて、髪は高島田。肌は透けるように白く、美しい顔立ちの娘でした。 和尚が「何者か」と問うと、娘は「茄子の精でございます。立派に育ったら妻(サイ)にいたすとおっしゃってくださいました。どうか妻にしてください」と言います。 和尚は笑いながら「サイは、おかずのことじゃ。そなたが言うのは妻。かりにも仏に仕える身で嫁をとるわけにはいかぬから、肩でも揉んでくれ」と招き入れる。そこへ突然鳴り響く雷の轟音。驚いて和尚の胸に飛びついた娘を思わず抱き寄せてしまいます。 目が覚めると娘の姿はありません。夢の中とは言え仏に仕える身にあるまじき罪を犯したと悔やんだ和尚は、雲水行脚の旅に出ます。 五年の歳月が経ち、懐かしさに誘われて寺に帰ってくると、「とと様」と呼ぶ声。見れば、おかっぱ頭の可愛らしい女の子がおりました。聞けば、5つになったと言う。これは間違いなく我が娘と確信した和尚が、誰に育ててもらったか問うと、女の子は「1人で大きくなった」と答えたのです。 「なにっ、一人で!なるほど親はナス(なく)とも子は育つか」…というオチがつきます。 落語家の入船亭扇辰が、女の子を演じる時の声音や仕草が可愛らしくて微笑ましい噺です。
茄子は江戸時代にはすでに、煮る、焼く、揚げるなど色々な調理法で庶民の食卓に登りました。汁物、煮物、和え物、漬物、天ぷら、しぎ焼き、さしみなど、日本の食卓に欠かせない食材です。
私の大好きな国イタリアでも、グリルしてオリーブ油とハーブで香り付けしたり、トマトなどの野菜と一緒に煮込んだり、詰め物をしてオーブンで焼いたり、そのほかグラタン、コロッケ、マリネなどたくさんの茄子料理があります。
ローマEST EST ESTの思い出
私がはじめてイタリアへ行ったのは、30年以上も前になります。行きの飛行機の中が寒くて風邪をひいてしまった私は、ローマのホテルに着くや否や高熱で寝込んでしまいました。 外で夕食を済ませた夫が一抱えもある薄い箱とワインを片手に帰ってきて、テーブルに広げた箱の中身は、見たこともないほど大きなピザでした。 全く食欲のない私は、見ただけでノーサンキューでしたが、「食事したレストランのピザがすっごく美味しかったから、テイクアウトしたんだ。少しでもいいから食べてみなよ」と言う夫の好意を無下にできず、一切れ食べてみました。溶けたチーズとトマトソースの下に、縦にスライスした茄子が見え隠れしています。しっとりとした茄子とピザ生地にとろ〜りチーズとトマトソースが絡んで、もう止まらない美味しさです。本場のピッツァとの感動の出会いでした。
翌朝はすっかり回復し、夕食はテルミ二駅近くにあるそのレストラン「EST! EST! EST!(エスト エスト エスト」に、夫とともに訪れました。陽気な店主が「いや〜、また来たね。ようこそ」とでも言っているのだろうか、満面の笑顔で出迎えてくれました。
数年後にイタリア語を習いはじめ、「EST! EST! EST!」が「ある、ある、ある」という意味と知りました。 12世紀の初め、ワイン好きのドイツ人司教がバチカンへ向かう際、従者に先まわりさせ、うまいワインを置く店の扉に「EST」(ここにあり)と書いて知らせよと命令しました。ある村で巡り会ったワインのあまりの美味しさにEST!EST!!EST!!!と3回書いて知らせたという逸話が残っています。 メランザーネ(茄子)のピザ。忘れ得ぬ思い出の味です。
今回ご紹介するのは茄子のポルペッティ(団子)です。柔らかくとろとろの茄子に卵やチーズ、パン粉を混ぜて丸め、パン粉をつけて油で揚げたコロッケです。バルサミコ酢をたっぷりかけていただきます。 ブランチやおもてなし料理にもぴったりです。ぜひ、お試しください。
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ふわとろ茄子のコロッケ・ポルペッティ
【材料 6個分】
材料名 | 分量 | 1 | 茄子 | 250g | 2 | 卵 | 1個 | 3 | 削ったパルメザンチーズ | 40g | 4 | パン粉 | 40g | 5 | パセリみじん切り | 大さじ1 | 6 | すりおろしにんにく | 小さじ1 | 7 | 塩・胡椒 | 適量 | 8 | モッツァレラチーズ | 10g | 9 | 細かいパン粉(衣用) | 適量 | 10 | 揚げ油 | 適量 | 11 | レモン | 適量 | 12 | バルサミコ酢 | 適量 |
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【作り方】
茄子はピーラーで皮をむき、2cm角に切る。 塩(分量外)を入れた熱湯で6分茹でざるに取り、水(分量外)を入れた鍋やボウルで重石をして水気を切る。冷めたら細かく刻む。 ボウルに2、溶き卵、パルメザンチーズ、パン粉、パセリ、にんにくをよく混ぜ、塩・胡椒で調味する。 3の生地とモッツァレラチーズを6等分する。チーズを生地で包み丸め、衣用のパン粉をしっかりつけ、160度に熱した揚げ油で揚げる。 皿に盛り、くし切りレモンを添え、バルサミコ酢をかける。