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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第22回 日々のとらえ方④~「忘れる」ということ

掲載日:2024年12月12日 12時00分

 今年もいつの間にか12月半ばとなりました。皆さまの中には、忘年会に参加する方もいることでしょう。民間調査(※)によれば、今年の忘年会の実施率は7割を超え、昨年やコロナ前を上回るそうです。

 忘年会は、その年の苦労を皆で忘れるための宴会と言われています。今回は「忘れる」ということについて考えてみましょう。



忘れたくないのに

 慌ただしい毎日の中、私たちは次々と目の前に現れてくる課題に対処しなければなりません。重要だと考えていたことをつい後回しにしてしまったり、大切にしたい思いをいつの間にか忘れてしまったりもしてしまいます。

 入社した時の大志。渾身の思いで取り組んだ仕事のこと。転職や異動の際の決意。「忘れたくないのに、忘れちゃうんだよねえ…」。そう思うこともあるのではないでしょうか。

 がんに関して言えば、治療に一区切りついた後など、以前と変わらない暮らしに戻ることはこの上ない喜びです。がんを経験したことが次第に遠い記憶になり、いつの間にか忘れてしまうことは幸せなことかもしれません。

 逆に、「忘れたくないんだけどねえ…」という人もいるような気がします。がんになったことで真剣に向き合った、生きることの意味。働くことの喜び。支えてくれた周囲の人たちの存在。改めて気づいた大切さも、過ぎ行く日々の中で少しずつ色褪せていきます。そのことにふと気づいて一抹の寂しさを感じる人もいるのではないでしょうか。



忘れたいのに

 一方で、「忘れたいのに、忘れられないんだよねえ…」という人もいます。がんになったことでの心理的外傷。治療に伴う副作用や後遺症。「忘れたい、解放されたい」という願いは痛切です。

 私自身、13年前の頸部食道がんの再発手術の際、声帯を失いました。自ら決断したとはいえ、その後の生活は不便を伴いました。幸いなことに会社の仲間や同じ境遇の食道発声教室の方々に支えられ、現在は会話もできるようになっています。ただ、特殊な発声である以上、がんと失声を経験したことを忘れる時はそう多くはありません。

 そんな中でも、がんになったことを忘れている時があります。それは仕事でも趣味でも、何かに集中している時です。PCの画面や会議での議論に。映画館のスクリーンや手元の本のページに。がん云々ではなく、一人の人間として生きている、そんな時間です。

 人それぞれ、自分自身の出来事への向き合い方は様々です。それがどうしても忘れられないことならば、一つには、その意味を真剣に考えていくやり方もあるでしょう。あるいは、別の何かに集中して瞬間的にでも忘れるやり方もあります。前者であれば、自分でも気づかない内に成長につながることもあるかもしれません。後者であれば、多面的な要素を併せ持つ一人の人間としての存在を取り戻すということではないでしょうか。

 この一年、皆さまにも忘れられないことがあったと思います。2025年が皆さまにとって良い年でありますように。



※Job総研「2024年忘年会意識調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000225.000013597.html


村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。



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