「自分はこんなに弱かったのか」――がんになってみて、精神的な弱さを感じる人は多いように思います。ドカンと大きな困難にぶち当たったとき、人は、これまで気づかなかった自分の一面を見るのでしょう。
しかし、そもそも「強さ」って何なのでしょうか。キグチなりに考えてみました。
「最も強いもの」って何だろう?
私はというと、自信を持って「自分は弱い」と言えます。 私は子供のころから繊細で泣き虫で、ちょっとしたことで傷ついて、そんな状況に陥るのは自分に落ち度があるからだと背負い込んでしまう子でした。つまりは自己肯定感が低い子でした。
大人になるにつれて「自分に落ち度があるとは限らない」と理解できるようになったけれど、繊細さと傷つきやすさは変わらず。以前はそれが「自分の弱さ」に思えてとてもイヤでした。何とか改善できないものかと試行錯誤していたものです。
その後ふと、「繊細さは、逆に言えば人が気付けないところまで感じ取ることができる才能なのだ」(特にアーティストには必須!)と気づいてからはとてもいいものに思えるようになったのだけど、それでもやはり傷つきはするわけで、精神的な負担を感じていました。
では、どうしたら傷を負わずにいられるのか。その方法を探すにあたって「最も強い」とは何なのかを考えるようになりました。
鋼の盾や分厚いコンクリートのような、何にも負けんとする固いものだろうか。 他者の言葉などものともせずに自分を貫く鋭い剣だろうか。 何にも動じない、どしっと構える重さだろうか。
いずれも、とても強いもの。でも、強くはあるけれど、絶対に壊れないものではないな、と思いました。その強固さ以上に強いものが現れたら、壊れてしまいます。しかも、「負けないぞ!」と心を強くするなんて、弱さを自認する私にできるはずもない。第一、全然楽しそうじゃない!
そんなときに思い出したのが、『斬鉄剣』の話でした。斬鉄剣とは、アニメ『ルパン三世』に登場する石川五右衛門の持つ刀で、どんなものでも一刀両断できるとんでもなく強い武器。しかし一つだけ弱点がありました。それは、コンニャク。コンニャクだけは、フニャンと刀をいなしたり、跳ね返したりしてしまい、絶対に切れないのです。
このエピソードはギャグですが、「たしかに、強さに勝る弱いものってあるよな」と思いました。例えば、柔らかいものは、弱いけど強いのです。
強いパンチをくらったとき、もし固い板を立てて真正面に受け止めたら、板越しでも衝撃を感じるだろうし、衝撃に抵抗するストレスもある。もしかしたら板を突き破って粉々になってしまうかもしれません。
でも、たとえ同じパンチでも、柔らかいものでフワッと包み込んでしまえばその勢いは弱まります。もしかしたら、何てことのない猫パンチくらいに感じるかもしれない。 しかも一度懐に入れてしまえば、それがどんなものなのか冷静に観察できるという特典も付いてきます。壁を作って抵抗しているだけでは得られないものが自然と手に入るという。
それは、人の心でいう「柔軟性」。フワッと包み込む柔らかさが、最も強いのではと考えました。しかも柔軟であれば、どんな形にも対応できます。
まずはどんなことも包み込んで受け止めて、じっくりと解析する。それができれば受ける傷も軽減できるし、得るものも大きい。何なら、得たものを活用して別のものを作り出すこともできます。
これは、弱い自分にピタッとはまる戦法でした。それ以降いつも、心の中で何かをフワッと包むイメージを思い浮かべています。それでも不意打ちをくらうと間に合わないこともあるし、対処しきれないこともあるのですが。
弱いなら弱いなりに
この方法は大抵のものごとに対して有効で、がんや、がん治療と向き合う中でもとても役に立ちました。その結果「強い人」などと言われるようになったのですが、冒頭のとおり、私の本質は弱いです。弱いからこそ、自分にストレスなくできる方法を模索してみただけでした。
私は、強くなろうとする必要なんてないと思っています。強さとは、周囲がそう認識するだけのものであって、自分で作り出すものではないと、私は考えます。
強さ・弱さというのは、「真ん中よりどっちに振れているか」というだけのことです。弱くたって別にいいじゃないか、と思うのです。弱いなら弱いなりにやり方があるはず。強くなるというよりは、出くわした困難を、どうしたら一番自分の心に負荷を少なく対処できるかが重要です。
その、自分なりの対処法を見つけるのが難しいところなのだけど、さまざまな考えに触れて気づきを得ていくことが、見つけるための一つの方法ではないかと思います。
どんなことでも、いろいろ探って、いろいろ試していくうちに、ちょっとずつ自分に合った形に整っていくものです。何なら、私の「フワッと柔らかく包み込むイメージトレーニング」もお試しください(笑)。
なかなか、痛み止めの薬のようにすぐに効果を得られないかもしれません。でも、形を整えていくペースもそれぞれでいいんです。
しかし、どうしても弱さを感じたり、自分の進むペースが遅い気がして焦ることもあります。そんなときに思い出したい言葉は……「案外、みんな似たようなもの」。
みんな、そんなもんです。
関連する題材で『ポジティブって何?』(第62回 木口マリの「がんのココロ」)というのを書いていました。こちらも併せてぜひ。
