食とホスピタリティーから浮かぶ日本の「いま」
掲載日:2018年4月26日 16時39分
日本対がん協会会長の垣添忠生の「全国縦断 がんサバイバー支援ウォーク」は、4月13日に第4回を終えました。名古屋から出発して、主に北陸を2週間かけて歩きました。長旅を続けていると、日本のさまざまな表情が見えてきます。
病院訪問の様子は特設サイトの一言ブログやインスタグラムにアップしてきましたので、今回は趣向を変えて、「食」や「ホスピタリティー」についての考察をお届けします。
エネルギーに感服
福井県のビジネスホテルに泊まったときのことです。
1階にインド料理とネパール料理のレストランが入っていました。父と息子が、たどたどしい日本語で接客しています。厨房へ注文を伝えるときには、流暢なヒンディー語(私はヒンディー語を解さないので、たぶん、ですが)。おいしいナンやタンドリーチキンをいただきました。
どこかでお昼にラーメンを食べたときにも、中国人の店員たちが日本語で注文を取り、仲間内では中国語で快活に会話をしています。
ほかにも、ロシア料理、韓国料理の店などで、日本まで働きに来ている外国のみなさんを見ました。
むろん、お金を得られることは強い動機でしょう。とはいえ、未知の世界に飛び込んで、商売を軌道に乗せて、ときに故郷へ仕送りもする。決して容易なことではありません。彼らのエネルギーに、とても感服しました。
異文化と接触するところから新しい文化が芽生えます。彼らが帰国すれば、貴重な経験が故国にもたらされるでしょう。
翻って、というのも類型的かもしれませんが、日本人のエネルギーの枯渇が気になります。3月9日のブログにも書きましたが、米国のシカゴ大学医学部で研修中の日本人医師によれば、大学で会うアジア人の多くは中国人か韓国人だそうです。
もっとも日本人の女性はたくましくなっています。旅の途中、夜に居酒屋で夕食をとることもあります。すると、女性が1人でぶらりと入ってきてカウンターに座り、ビール、日本酒と注文しながらおつまみを食べる。すっかり店の雰囲気に溶け込んでいます。一昔前なら、考えられなかった光景です。
バンダナまで畳んでくれる
食は生活の根本であると同時に、人生の楽しみです。
2月から始めたウォークでも、旅館によっては、煮魚や野菜の煮つけ、おすましやお味噌汁が暖かくないことがありました。省力化のあおりでしょうか。作りおきの品をそのまま出して、暖かい料理は茶碗蒸しと、ロウで加熱する一人用鍋ぐらい、という宿もありました。そんなときは、やっぱりがっかりしてしまうものです。
逆に、冷たいものは冷たく、暖かいものは暖かい日本料理が出てくると、うれしくなります。ぬる燗の日本酒も引き立ちます。
宿との出会いも、旅には欠かせません。行き届いたサービスとおいしい食事があれば、また来たいなと思います。
富山県魚津市の「お宿いけがみ」もそんな宿でした。お風呂は、江戸末期から150年続く北山鉱泉の源泉湯。無色透明で無臭のお湯は、柔らかく肌に染み入り、私の好みです。3人も浸かれば狭いぐらいの木造の湯船で、すっかりくつろげました。
家族経営なのでしょうか。和服姿で三人姉妹がもてなしてくれました。
一言ブログ(4月10日)でも触れましたが、私は剣岳が大好きです。かつて、剣岳のふもとの富山県上市町(かみいちまち)の「うれしいことに、剣がある。」というポスターを見て、我が意を得たり、と膝を打ったこともあります。
いつかまた、春霞のかからない季節に剣岳を見に行き、のどぐろや越前ガニを味わい、「お宿いけがみ」に泊まってもいいな、と思いました。
「お宿いけがみ」の翌日に泊まった黒部市の「たなかや」も、ちょうど私を特集したNHKのニュースをみなさんがご覧になったこともありますが、とても丁寧にもてなしてくれました。
心のこもった接客と細やかな料理は、つながっています。
旅館によっては、洗濯物まで引き受けてくれます。下着やタイツ、シャツ類はもちろんのこと、バンダナまで洗って畳んでくれていました。
洗面所からバリアフリーが見える
一方で、バリアフリーについても考えさせられます。
象徴的なのは、ビジネスホテルの洗面所と床の段差。階段1段分ぐらいありそうなホテルもあります。10センチ、15センチぐらいの段差は珍しくありません。
しかし、日ごろ鍛えている私でも、1日歩いて筋肉痛が出ていると、この段差が強敵です。
人生100年時代と言われます。高齢者の旅を考えればバリアフリーが理想ですが、せめて手すりを付けるぐらいの配慮はほしいものです。
実際、洗面台を洗面所の外に出すという工夫をしているビジネスホテルもありました。
新潟市では、「カーブドッチワイナリー」というワイナリー兼レストランに泊まりました。このウォークの旅程を精密に立ててくれている、アシスタントの森田幸子さんの強い思い入れです。
この一帯は新潟ワインコーストといい、カーブドッチワイナリーをはじめ5軒のワイナリーがあります。その1つ、「フェルミエ」のオーナーで栽培・醸造家の本多孝さんと夕食をともにしました。
本多さんは、新潟出身の51歳。日本興業銀行を39歳で脱サラした方(脱サラ時にはみずほグループ)で、日本対がん協会の関原健夫・常務理事の興銀の後輩です。
ワイナリーのある土地は、信濃川が注ぐ日本海に近い砂地。それに、おいしいブドウの育成に欠かせない夜の冷え込みも、フランスのボルドーやブルゴーニュほどではありません。本多さんは、この土地に合うブドウを探して、スペインのアルバリーニョというブドウにたどり着きました。そんな苦労話を伺いました。
アルバリーニョでつくった白ワインをいただくと、ある程度濃厚で、少しどっしりしているが重すぎもしない。少し酸っぱいけれど酸っぱすぎもしない。香りもよくて、いい味でした。
一人旅では、さまざまなことに気づかされます。1つ1つを編み上げていくと、日本の「いま」が浮かび上がってきます。
暖かいホスピタリティーの心が広がれば、がんサバイバーへ向けられる世間のまなざしも優しくなってゆくでしょう。そんなことも感じながら、日々、歩いています。
いつもご支援ありがとうございます。ご寄付やインスタグラムへの感想は、大いに励みになっています。第5回ウォークは、新潟から関東へ。新緑を楽しみながら、のんびりと進みます。
このページでは、同行していた方々にご提供いただいたお写真も掲載させていただきました。撮影者のお名前は省略させていただきます。ご協力どうもありがとうございました。