ウォークの神髄は、誰もいない道にあり ~北海道で同行して~
中村智志
掲載日:2018年7月31日 17時18分
「中村さん、何だかわかる?」
ハスの葉ってこんなに大きくなったっけなあ。
カラマツソウってちっともカラマツに似ていないな。
この薄紫の花がジャガイモか。気のせいか、畑からジャガイモのにおいがする。
なるほど、垣添忠生先生から聞いていたとおり、柳とハンノキが繁るところでは水が流れている。見えなくても、瀬音が聴こえる。
「中村さん、あれ何だかわかる?」
一緒に歩いている垣添が突然、質問してきます。視線の先には、大きな黒いビニール袋がいくつも積み上げられ、想像がつきません。すると、どことなくうれしそうに教えてくれました。
「牧草ですよ。冬に備えてぎっしり詰めておく。詰めるまで全部機械化してるんですよ」
私は、「全国縦断 がんサバイバー支援ウォーク」を東京でバックアップしながら、最初は何となく、やがて確信を持って、「ウォークの神髄は、誰もいない道にあり」と考えるようになりました。
国道や県道をひとり歩く。ドライバーに「この人大丈夫かな?」と心配される。実際のウォークでは、ハイライトの病院訪問より、そんな日のほうがずっと多かったのです。
人生でもっとも歩いた3日間
私は7月20日の夜、北海道倶知安町へ入り、翌21日から3日間、ウォークに同行しました。21日は、好天のもとをのんびりと留寿都(くるすつ)村へ。22日は、濃霧やときおりの霧雨の中、喜茂別(きもべつ)町と札幌市の境界に立つ中山峠へ。
一歩ずつ進み、五感を全開します。植物の名前を覚えると、風景が親密になります。合鴨農法らしき水田では鴨が3羽、働いていました。別荘用なのか、「757坪 FOR SALE」の看板の上に○で囲んだ「契」の字が。防寒対策でしょう、寺院の形も内地とは微妙に違います。
いずれも、車なら見過ごしていたか、一瞬の出来事でした。
田園地帯では、歩いている人にほとんど会いません。自動販売機すらありません。最終日、定山渓温泉から札幌の中心部へ向かったときには、「飲み物の心配をしなくていいんだ」と気が楽になりました。
歩行距離は約75キロ。53歳にして、人生でもっとも歩いた3日間でした。
歩くからこそ感じとれる、風景の息遣い。「がんサバイバー支援ウォーク」は同時に「ニッポン再発見の旅」でもある。そう思いました。
「歩くことは贅沢だ」。2月のウォーク開始以来、垣添から繰り返し聞いた言葉です。それにうなずくと同時に、やはり垣添が繰り返し述べていた、みなさんの支援がどれだけありがたく励みになったかも、実感できました。
ウォークのゴール、札幌市の北海道がんセンターで、日本対がん協会のメンバーと。右から事務局長の岡本宏之、理事長の後藤尚雄、会長の垣添忠生、参事の望月友美子、私(7月23日)。