「何もできていない……」と思い込まないで
掲載日:2018年9月27日 12時17分
がんサバイバーや家族は様々な悩みに直面しています。毎日の生活のこと、仕事のこと、家族のことなど病院の医師や看護師に相談しにくいことも少なくありません。日本対がん協会では2006年より
「がん相談ホットライン」を始めました。たくさんの相談が寄せられ、相談員が一人ひとりの思いを受け止めています。新シリーズ「ホットライン便り」でお届けいたします。
「何もできていない……」と思い込まないで
「何もできなくて辛い…」
相談者が絞り出すように発したひと言に、電話を通しても、懸命に涙をこらえている様子が分かります。お母さんががん。相談者は実家から遠い所で生活をしています。仕事や家庭があり頻繁に見舞うことができません。電話でのやりとりが精いっぱい。自分は何もしてあげられていないからとても辛い…。
この相談者に限らず、ご家族からの相談では「何もできなくて辛い」という言葉がよく聞かれます。相談者によっては、働き盛りの年代で仕事を思うように休めない方、育児中や子供の受験を控えている方、なかには、配偶者の親の介護をしているという方もいます。相談者にも相談者自身の生活がありますから、親ががんになったとき、親の助けになりたいという思いとは裏腹に、自分の生活や家庭のことで手一杯という方も多いでしょう。
「何もできない」「十分なことがしてあげられていない」という気持ちを抱かれるのはよく分かります。
でも、本当に何もできていないのでしょうか。決してそんなことはありません。この相談者を例にとってみると、電話でお母さんの不安や辛い気持ちをよく聴いていました。これからの治療に迷うお母さんと共に悩み、真剣に考えていました。これも十分家族としてできることの一つですし、むしろ大切なことです。
患者さんは不安や辛さなど抱えている気持ちを誰かに聴いてもらえるだけで気持ちが少し和らいだり、落ち着いたりすることがあります。気持ちに寄り添ってくれる人がいるだけで心強くなれたり、一人じゃないと思えたりすることがあるのです。
患者さんの迷いや悩みを聞いたときに、それに「答えなくてはいけない」と思うことがあるかもしれませんが、気負う必要はありません。その気持ちを受け止め、一緒に迷い、一緒に悩み、一緒に考える。それだけで十分な場合も少なくありません。仮にそばにずっといたとしても、「一緒」ということが感じられない場合だってあるのです。
さらにこの相談者は、お母さんと同居するお父さんのことも気に掛け、お父さんの大変さにも配慮して労うことを忘れていませんでした。患者さんへの直接的な行為ではありませんが、そばで支えている人をサポートすること、これもまたできることの一つなのです。