瀬戸内寂聴さんの言葉と佇まい ~寂庵を訪ねて~
掲載日:2018年10月4日 11時39分
96歳なのに徹夜
観光客でにぎわう京都・嵐山から少し先の嵯峨野に、瀬戸内寂聴さんの寂庵があります。まだ夏の陽射しが残る9月19日、初めて訪ねました。
あたりまえですが、「寂庵」と木の縦長の表札が掲げられていて、着いたなあ、と実感がわきました。
お伺いしたのは、11月11日に有楽町朝日ホールで開かれる日本対がん協会創立60周年記念講演会で流すビデオメッセージをいただくためです。
撮影のセッティングが少し遅れて、お待たせしてしまいました。準備が整ったころ、緑濃い静かな庭に面したお部屋に、66歳年下の秘書とゆっくりと登場された寂聴さんは、とても肌つやがよくて、「若いな」という印象を受けました。イスにお座りになると、それだけで、周囲が落ち着きます。これが、佇まいなのですね。
驚くことに、前の晩は、原稿のご執筆で徹夜だったそうです。
それなのに、滑舌もよく、約45分にわたり、メッセージを語ってくださいました。聞き手となった日本対がん協会理事長の後藤尚雄も、しきりにうなずいています。
92歳でなった胆のうがんを乗り越えた体験、いつもニコニコしていれば幸せもやってくること、好きなことをやっている人は穏やかな顔をしていること、「ありがとう」と言ったり褒めたりするのが大切なこと……。
思わず身を乗り出してしまうお話が続きました。
おへその横のほくろも自慢して
寂聴さんは、相談に見える方に、たとえば「ほんとうはね、見えないところにとても素敵なところがあるんじゃない? おへその横にかわいらしいほくろがあるなら、それは自慢にしてよいことよ」などとおっしゃるそうです。相手の表情も明るくなるそうです。
聞きながら、こういう語りは、サバイバーの心にも響くだろうなあ、と思いました。以前、秋田県を中心に全国の自殺相談を受けている佐藤久男さんの本を書いたときに「失ったものは数えない。あるものを数える」と聞いたことを思い出しました。
寂聴さんは収録を終えると、休憩されてから、法話に向かわれました。徹夜明けのはずなのに。庭を散策していると、お堂から、笑い声がしょっちゅう聴こえてきます。法話に来られたみなさんは、幸せをおみやげに帰るのでしょう。見上げると、木々の向こうに、青空が広がっていました。
(文・日本対がん協会 中村智志)
メッセージを語り終えた後の瀬戸内寂聴さん。