生命(いのち)の恩返し たすきをつないでいきましょう! ~日本対がん協会ほほえみ大使 アグネス・チャンさんに聞く
掲載日:2018年11月13日 16時48分
歌手・エッセイストのアグネス・チャンさんは、2008年、日本対がん協会の「ほほえみ大使」に就任した。毎年9月のがん征圧全国大会での講演、リレー・フォー・ライフ(RFL)、ピンクリボンなどさまざまな活動を展開している。一方で、ユニセフ・アジア親善大使でもある。今年は対がん協会の創立60周年。アグネスさんに、対がん活動への思いを語ってもらった。(文 日本対がん協会・渡邉奈保子、中村智志)
ほほえみ大使10周年の表彰の受賞スピーチを行うアグネスチャンさん。11月11日、有楽町朝日ホールで。
アグネスの活動を見て検診に行った!
――ほほえみ大使就任から10年ですね。
2007年のRFL(リレー・フォー・ライフ)に参加して、がんへの意識が高まって検診を受けたら、乳がんが見つかりました。早期発見・治療のおかげで元気に生きています。
ほほえみ大使になって、いろんな医師の先生と対談させていただくなど日々勉強で、がんに対する基本的な知識が豊かになりました。対がん協会幹部の方と一緒に大臣に接見したりしました。
また、たくさんのサバイバー仲間もできて、心も強くなり、再発しても怖くない気持ちにもなりました。RFLは生命の恩人です。私の活動は、みんなの意識を高めること。「忘れないで検診に行って。がんは誰にでもありえるからね」と、耳にタコができるくらい言い続けることが大事かなと思います。たくさんの人が検診を受けてくれれば、早期発見される人も増えます。
――この10年の活動で、どんなことが印象深いですか?
表彰を受けるアグネスさん(左は垣添忠生・日本対がん協会会長)
「アグネスの活動を見て検診に行ったら、がんが見つかった。早期で良かった」「子どもが成人しました」とか、手ごたえを感じる話を聞いたり、手紙をいただいたりするのが何よりもうれしいです。カミングアウトしてよかったなと思います。
私には、いっぺんにたくさんの人に話すチャンスがある。聞いた人たちが啓発されて、自分の体を大事にするようになれば、私にも励みになります。私ががんになった意味を感じるし、生かされる理由かなと思います。生命の恩返しですね。
サバイバーみんなにストーリーがある
――講演では、笑いあり涙ありですね。
病気のことは個人的な話だから、いくら笑えるように話してもへこむ部分もあります。でも、不安やつらさも共有できる。今は、病気にならなかった自分は想像できません。時間がたって、がんになった自分はいい自分と思えるようになりました。
――講演では何を心がけていますか?
サバイバーみんなにストーリーがあるんです。家族のこと、仕事のこと、体のつらさ、喜び、悲しみ、寂しさ、うまくいったこと……私が特別なわけではない。だから、みんなの代表として話しているつもりです。
亡くなったサバイバー仲間の方もいますが、私の中で生きている。私の話を聞いた人は、私を通して、その人たちと会っているんです。彼らから受け取った生命のたすきを、しっかりとつないでいく。広い視野に立てば、生命ってそうじゃないですか。それを教えてくれたのはRFLです。ほかの活動やユニセフもそうです。
――ユニセフと対がんは、どちらも生命と向き合う活動ですが、違いはありますか?
ユニセフで向き合うのは、がんよりもっと基本的な問題です。毎年1、2回、これまでに20何カ国を訪れました。飢えに苦しむ子どもに、安全な水、食べ物、予防注射、薬、そして平和を届けたい。がむしゃらに活動しています。考え方が基本に戻るので、子どもたちと接すると、生きる力をたくさんもらっています。
若い人たちに種をまく
――対がん協会には何を期待しますか?
先頭に立って、がんに強い社会を築いていくことです。60年の伝統があり、データの蓄積もあります。毎年1000万人も検診受診者がいる、その数字の重みってすごいですよ!
私が始めたときは2カ所だったRFLも、約50カ所に広がりました。でも米国では5000カ所です。ファイトバック(がんに立ち向かう)に力を入れていくためにも、知恵を出し合い、開催地や寄付金を増やし、研究支援をしてほしいです。がんが治療できる病気になるまで、もうあと一押しじゃないですか。
あとはロビー活動ですね。たとえば禁煙問題など、国が壁に当たっているときには民間のロビー活動が効果的です。たばこが高くなって、一箱1000円すれば、贅沢品です。吸う人は少なくなるでしょう。
――今の思いを語っていただけますか。
以前は成果にこだわっていたけれど、今は仲間を増やして、私が生きている間に成果が見えなくても、「(活動を)続けていけるように」と考え方が変わりました。若い人に種をまいていこう、そう思う自分がいるんです。
※アグネスさんのインタビューは「日本対がん協会60周年史」(非売品、2018年末に完成予定)にも掲載されます。
街頭でピンクリボンの啓発も行った。2010年、東京・有楽町で
【プロフィール】歌手・エッセイスト。香港生まれ。1972年、「ひなげしの花」で日本デビュー。米国スタンフォード大学で教育学博士号を取得。ユニセフ・アジア親善大使としても活躍している。著書に『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』など。