今回も、テーマは脱毛。
前回、「脱毛してもショックではなかった」と書きました。いくぶん緊張しつつも、割とすんなり受け入れられた理由は、
・痛くない
・必ずまた生えてくる
・なにか、楽しめそうな気がする
と思ったからでした。
生まれた時は、だれもがボウズ状態であるのに、物心がついてからは自分の頭皮や、頭の形がどうなっているのかを見ることはほとんどありません(男性は見る可能性もありますが)。それって、ちょっと興味があります。
最近では、ハリウッド女優やタレントさんが丸刈りにすることもあります。「かっこいい!」と言われたり、ボウズだからこそ「かわいい!」と言われることも多々あります。それならば、もしかしたら私もかっこよくなれるかもしれない。自らの意思でボウズになるのでなくても、かっこよくなっていけない訳ではありません。
「周りから見たら“辛い”と言われる状況だからこそ、それを逆手に取ってかっこよくなったら、さらにかっこいいのでは!?」
脱毛を迎えるにあたり、そんな思いがムクムクと湧いてきました。だれもができるわけではない体験を、いかに最高のものにするか。薬をやめたらまた生えてくるため、今しかできないことでもあります。
ただし、前回も書いたように、不安な気持ちが皆無になったのではありません。それでも、ひとつでも「楽しいかも」と思えることがあると、不安は心の中心から脇へ、ズイッと押しやられていくのでした。ワクワクには、それだけのパワーがあります。
では、ボウズ時代を謳歌するために、どんなことができるのか。
それは、「コスプレ」!!
「いつもと違う自分になってみたい」という願望は、だれにでも少なからずあるけれど、それで街を歩くほどの度胸はなかなかないもの。ところが、脱毛すれば、それを理由にウィッグをかぶったり、大きなサングラスをかけたり、何ならターバンを巻いたりできるのです。言わば、公認でコスプレができるという。
がんを周りに公表していないなど、病気になる前と同じ髪型にしておきたい場合もあると思います。でも、少しでも自分の時間があるのなら、たまに遊んでみてもらえたらと思います。こんな機会だからこその新しい自分を発見できるかもしれません。「アフロがこんなに似合うとは!!」とか。
・脱毛コスプレ(1):ウィッグ
ウィッグは、脱毛時の基本アイテムです。私も、脱毛することが確定してから病棟にある資料を集めまくりました。しかし、どれを見ても何だかパッとしない……。カタログの色合いも、写真も、腫れ物に触るような淡い雰囲気。しかも、医療用ウィッグは数万円〜数十万円もします。「この中なら、これがまだマシかな」と、ページに折り目を付けるも、モヤモヤしたものを感じていました。
そこで、一般に売られているファッションのためのウィッグはどうなのだろうと検索すると、最高に楽しげでかわいいウィッグ姿の女性の写真が載っていました。「私もこうなれるんじゃないか」と、間違った期待をしてしまうという。
通常、何十万円もする服や靴を買うとしたら、「早く身につけてお出かけしたい!」とワクワクするはず。必要に迫られて買うウィッグだって、そうであっていいのではないでしょうか。
医療用、ファッション用とも、それぞれに利点があります。最近では医療用のカタログもだいぶオシャレ感が増してきました。どちらにしても、「これなら素敵になれるかも!」という、ちょっとした楽しみとともにウィッグを選んでもらえたらと思います。
ちなみに、髪型がキマると全体的にスタイリッシュに見えるものですが、ウィッグは、たいていスタイリングしたてのようにキマっています。かぶるだけで、いつでも素敵になれるという特典が付いているのです。
・脱毛コスプレ(2):スカーフ巻き
実は私は、脱毛中にほとんどウィッグをかぶることはありませんでした。ファッションウィッグを2つ購入したものの、不快感がないか、道行く人や友達の反応はどうか、風の強い日にどうなるかなど、実験的にかぶって過ごしてみた程度でした。
通常はどうしていたかというと、スカーフを巻いていました。髪が抜けてきたころに近所の量販店でスカーフを4本ほど買い込み、いかにかっこよく巻くかを考える日々。
これは、海外の脱毛対策を調べていて思いつきました。そこには、頭にスカーフを巻き、バッチリと化粧をして、さっそうとスーツを着ている姿がありました。それがあまりにもオシャレで、これまたワクワクさせるものがあったのです。
「普段、頭にスカーフなんて巻かないけれど、今ならできる! サングラスをかけて、オープンカーに乗って、スカーフをひらひらさせてみたい!」
結局、オープンカーには乗りませんでしたが(ほかの副作用もあるし)、おかげでかなり楽しい脱毛ライフとなりました。
このように、私はウィッグやスカーフなどを使っていましたが、“隠すため”ではありません。
脱毛は、自分の命のために、できる限りのことをしているからこその姿。それを、誇りに思っていました。「私は、生きようとしているんだ」と、スカーフを取って堂々と宣言してもよかったくらいです。
ボウズだろうと何だろうと、恥なんかではない。
そんな自分を、結構好きだったように思います。
◇
抗がん剤終了後に生えてきたのは、すばらしく美しい髪でした。大きくクルリとカールしていて、赤ちゃんの毛のように柔らかい髪です。人によって新しい髪の質は異なりますが、私のようになる人も多いようです。
生え始めのころには、よく「触っていい?」と言われたものです。自分でも触るのが心地よく、まるで子猫をなでている気分。するとあるとき、看護師さんが触ってのコメントが「毛並みがいい」。さらに動物気分になりました(笑)。
木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。