2月4日の世界対がんデーに開かれたネクストリボン第2部のテーマは、「がんについて語ろう -がんとともに生きる、寄り添う-」。女優の古村比呂さんらが自身のがん体験を語り、うち3人には、サバイバーでもあるタレントの向井亜紀さんが聞き手となった。ユーモアあり、心を打つエピソードあり。がんを機会に新たな人生が始まる可能性も感じさせた。

胃がんの父が笑うようになった 岩越涼太さん

岩越涼太さん。1人でも多くの人が光を見つけるきっかけになればと思い、応募した
悩んだときは大きく、苦しいときは未来を考える 岸田徹さん

岸田徹さん。大阪弁でユーモアたっぷりに語り、聴衆を引き付けた
いくつかの病院にかかり、国立がん研究センター中央病院で「胎児性がん」という珍しいがんとわかった。がんは全身に広がっていた。「5年生存率は五分五分です」と医師。それを聞いて岸田さんは「こんなに広がっていても、5割も助かるんだ」と考えたという。 たくさんの人がお見舞いに来てくれた。「お見舞いノート」をつくった。その中で、ある先輩がくれた言葉が、岸田さんを勇気づけ、目を開かせた。 「『Think Big』おおきく考えろ。人生で起こるすべての出来事には意味がある。トオルの10年後はメッセージに溢れている」 岸田さんはそれから、悩んだときは大きく、苦しいときは未来を考えるようになった。
治療を乗り越えたが、手術で射精障害という後遺症が残った。情報がなく、必死にネット検索すると、夫が似たような症状になったという女性のブログを見つけて連絡を取った。夫は3カ月で自然と治ったという。 「患者さんの見通しになる情報が大切なんだ、と身に染みて思いました」 岸田さんはこれをきっかけに、「がんノート」を始めた。インターネット生放送で、岸田さんがゲストにインタビューする番組だ。お金、性、恋愛・結婚、仕事……さまざまなことを一歩踏み込んで聞く。放送(配信)は100回を超えた。 「ゲストの体験が、視聴者の方のロールモデルになればいいなと思っています。この会場にいるみなさんも、がんに限らず、誰かのロールモデルになるでしょう。 そのときには、自分だけ苦しいと考えず、『Think Big』という言葉を少しだけ思い出していただければうれしいです」
「1人じゃないな、とこの1年で感じました」 矢方美紀さん
ここからは、タレントの向井亜紀さんが聞き役となって、3人の話を聞いた。
向井さん自身、2000年に、妊娠中に子宮頸がんで子宮全摘出をしたサバイバーだ。2013年には大腸がんにもなった。そのとき受けた手術が18回目だという。
その後も毎年、内視鏡検査を受けていて、「いつも小さながんが見つかっていましたが、先週受けた検査で、胃にも十二指腸にも腸にも、ひとつもがんがないという大合格の結果が出ました。手術してからこういう結果は初めて」という。
そんな向井さんと語り合うトップは、タレントの矢方美紀さん。2017年までSKE48に所属していた。2018年4月、セルフチェックで左胸にしこりがあることに気づいたことがきっかけだった。乳がんのステージ2Bで、左乳房全摘出・リンパ節切除の手術を受けた。25歳だった。 「『なんで私だけが』と思い、落ち込みました。医師から『再発を防ぐために全摘を』と言われたときに『絶対嫌だ、このお医者さん何言ってんのや』と思ったのですが、冷静に考えると今後の人生のほうが長いし、1週間後に『全摘したいです』と話しました。だんだん受け入れていった」
手術の2週間後に公表。治療の選択によっては外見の変化が出るので、誤解を避けるためにも情報は公開すべきだと考えたという。 「隠すよりどんどん言ったほうが自分の性格に合ってるんじゃないかな、思って決断しました」
公表後は、後悔もあった。「ネットなどでバッシングを受けないか」と不安になった。自分のSNSも怖くて見られなかったが、あるタイミングで見ると、温かい言葉がたくさん届いていた。手紙などでアドバイスをもらうこともあった。 「1人じゃないな、とこの1年で感じました。病気をしたから全てが悪いわけじゃないと感じています」 いろいろ考えたが、再建もしていない。 「この自分でも私らしい、このままで行こうと思っています。友だちに手術した胸を見せることもあります。ある友人は『えっ、かっこいいよ』みたいに言ってくれました」 向井さんに髪型について聞かれると、「ウイッグ取ると、短髪のハイトーンなんです。テレビ見て、あっ似てると思ったのは、ダウンタウンの松本人志さんです」と笑いを誘った。 今後の夢は、声優。名古屋でレッスンを受けている。「近く、自分の名前と声をお届けできる仕事ができたらいいなと思っています」と語った。

コンプレックスを互いに受容し、支え合いたい 濱松誠さん

濱松誠さん。ONE JAPANとして、書籍『仕事はもっと楽しくできる』(プレジデント社)がある
「抗がん剤を卒業しました」 古村比呂さん

古村比呂さん。リンパ浮腫情報交流サイト「シエスタ」なども開設している

向井亜紀さん。明るく真摯に、対談相手の話を引き出していた
ささいなことに幸せを感じる 木山裕策さん
第2部の最後は、ネクストリボンのキャンペーンソング「幸せはここに」を歌う歌手の木山裕策さん。平日は会社員をしている。
木山さんは1968年生まれ、大阪府出身。ずっと歌が好きで、息を吸うように歌っていた。大学時代はバンドを組んだ。いまも通勤途中、自転車で歌っているという。
27歳で結婚し、すぐに長男が生まれた。30代に入り、次男、三男と生まれた。課長になりインターネットの広告制作の仕事で多忙だった2004年、36歳で左側の甲状腺にがんが見つかり、左側の甲状腺の摘出手術を受けた。
手術の前の晩、医師から、のどを切るので声が出なくなる可能性を告げられた。声が残ったら歌にチャレンジしよう。そう思った。手術の後、看護師に起こされると、麻酔が残る朦朧とした状態で、「アー、アー」とやってみた。声は出た。
日常生活が戻っても、反対側の甲状腺に腫瘍ができる夢をよく見た。ずっと平均寿命までは生きるつもりだったが、突然、タイマーが鳴り始めたように思えた。 この世からいなくなっても生きた証を残したい。そんな思いが募る中で四男が生まれて、その2カ月後、歌手になる夢に挑戦した。2008年2月に「home」でデビューし、その年のNHK紅白歌合戦にも出演した。 「がんになることでもう一度自分に向き合い、自分が何をしたいのか、子どもたちに何を残したいのか、を考えました。ささいなことに幸せを感じるようにもなりました」 そう語り、木山さんは、「幸せはここに」を歌った。 「いつでも変わらない愛見つけて ありふれた朝も輝いている」 透き通った声から、昨日と同じ日常を迎えられる喜びが、会場全体へ広がった。
